以前、あるIT業の課長さんと、こんなやり取りがあった。
「新しく配属された人が、本当に悩みのタネでして……」
「なぜですか?」
「単純に、仕事をしないんです。依頼したことはやらないし、改善してもらおうとしても、生返事でわかっているんだかわかってないんだか……」
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目次
心を病んでしまう管理職が増えている
「人事や部長に相談しましたか?」
「ええ、しました。けど「他に人はいないし、なんとかうまく使ってくれ」と。どうやら他の部署で使い物にならなくて、うちに回されてきたようです。」
「なんとか戦力化出来るといいですね……」
「でも、彼は戦力化以前の問題なんですよ。なぜか私、嫌われているようでコミュニケーションが取れないですし……。」
「嫌われるような心当たりは?」
「怒ったりとか、責めたりとかは一切してません。パワハラって、言われてしまいますんで、すごく丁寧に単に仕事のお願いをしているだけです。」
「どんな感じなんですか?」
「これお願いしたいんですけど、というと「忙しいです」と言われます。「ではいつまでにできそうですか?」と聞くと、「わかりません」と。」
「……難しいですね。」
「人事に相談したんですが、「課長としてのチャレンジです」と。もう泣きそうです。自分で採用したなら、責任も持とうと思いますが……。」
彼はかなり参っているようだった。
そして、最悪なことに、この課長さんは半年後、心を病んで休職してしまった。
「わからない」「面倒くさい」でコミュニケーションを拒否する部下
そして最近。
全く同じような事象に言及するTweetを見た。
ああ、これは上司が絶望するやつだ、と思った。
大事な質問を「わからない」「面倒くさい」で処理されたら、「ああ、この人は私を拒否しているな」と判断するというのは理解しないとマジでやばいと思うこれ。
— 借金玉 (@syakkin_dama) July 16, 2019
「人をつかう立場」になった瞬間に直面せざるを得ない問題が、「コミュニケーションを拒否する(しているように見える)人」だ。
「考えるのが苦手な人もいるよ」とか
「上司の指示が悪いのでは?」という方もいるが、どうやらこれは能力や指示の内容の問題ではない。
「そういうことはしたくないんで。」とか
「考えられないんで。」とか
「しりません。」とか
そういう、交渉を拒否する人がいるという、深刻な問題だ。
もちろん「結果を出せない人」や、「ミスをする人」、あるいは「能力が不足している人」というのは存在している。
だが、それは上司としては許せる。
というか、許さざるを得ないし、そこから職務を分解したり、仕事を入れ替えたりして、なんとか仕事を遂行できるように持っていくのが、上司の役割だ。
上司が一番困るのは「全てを拒否する人」
だが、「何もしたくない」という人や「考えたくない」という人には取り付く島もない。
上司が一番困るのは、そう言う「全てを拒否する人」である。
もちろん、上司も最初の何回かは我慢する。一生懸命歩み寄ろうとする。
そして、
「そこをなんとか」
「お願いしますよ」
「これだけでいいんで」
と、なんとか仕事をしてもらえるように「お願い」する。
もちろん、旧来の上司だったら、怒ることもあるだろう。
「その態度は何だ!」とか、
「礼儀がなってない!」とか、
「やる気を見せろ!」とか。
ただ、最近はそういう事を言うと、すぐに「パワハラ」などと言われてしまうので、
そう言うことも軽々しく言えない。
だから、今の上司が出来るのは「命令」ではなく「お願い」だ。
だが、「お願い」が無碍に断られ続けると、上司はもう「ああ、この人とは仕事できないな」と思ってしまう。
そして、それが続くと、上司も徐々にその人とと話すのが辛くなってくる。
冒頭の話にある通り「イヤな上司」と同じくらい「イヤな部下」と接することは、心を病むのだ。
「被せるように怒る」人はむしろやさしい人で、大方の人は「OK,この人は会話する相手に非ず」で終わるやつだよこれ。
— 借金玉 (@syakkin_dama) July 16, 2019
そして、徐々に上司は自分の心を守るため、「その人と接しないこと」を第一に考えるようになる。
「ダメな部下でも、使わないといけない」と指示される中間管理職のつらさ。
「そんなの上司のマネジメント力不足だろ」と心無いことを言う人もいる。
そうかもしれない。
が、彼らも普通のサラリーマンである。
少し考えてみれば「完全な管理職」など、どこにも存在しないことは容易に想像できる。
管理職も部下たちと同じく自分の能力不足と向き合いながら、日々悩んでいるのである。むしろストレスの度合いは一般社員に比べて大きい。
実際、JTBコミュニケーションデザインの調査では、現在の管理職は権威が失われ「上司」と「部下」の板挟みで苦しんでいる存在である。
平成時代の課長は、「ストレス」「板ばさみ」「これでいいのか不安」。かつての課長の権威はなく。
平成時代を課長として過ごした日々を振り返ってもらったところ、最も多かったのは「ストレスが多い」(46.8%)で、以下「上司と部下の板ばさみになる」(37.1%)、「課長としてこれでいいのかと不安がある」(34.0%)、「忙しく、時間の余裕がない」(32.6%)、「課長は孤独である」(32.1%)が続きます。
とくに自分が採用に関わっていない、ダメな部下を「使わないといけない」状況に追い込まれた管理職は、本当にストレスフルな仕事だ。
まとめ 「責任感ある管理職」を大切に
「働き方改革」によって、会社は社員に残業させず、無理を言わず、ますます優しく接するようになっている。
もちろん「ブラック」な会社も数多くあるが、全体からすれば僅かな数である。
「週60時間以上・年収250万円未満」の「ハードワーキングプア」は確実に減少している。
絶対数で見ると、2012年の394,900人に対し、2017年には物価上昇分を考慮しても340,146人が該当する(尚、物価を考慮しないと、2017年の実数は272,900人である)。
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だが、その「しわ寄せ」はどこに来ているかといえば、これは間違いなく残業などの制限がない「管理職」だろう。
ある損害保険会社の管理職は、こんな事を言っていた。
「客先でちょっと嫌なことがあると、すぐに休職するひとが本当に増えた。ウチの職場でも3人休職中だ。もちろんうちはホワイト企業だから、彼らに給料は出し続けているけれど、その分のお客さんは、管理職が引き受けている。残業代はもちろん出ない。一般の社員のときに比べて給料は減るわ、なにか起きるとすぐに責められるし、責任ばかり重くて嫌になる。管理職になんか、なるもんじゃないよ。」
いままで日本企業の屋台骨を支えていた「責任感ある管理職」が崩れた時、組織がどうなってしまうのか、想像に難くないだろう。
「責任感ある管理職」を、もっと大切にしなければならない。