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皆さんは、「ストーリーブランディング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
- 良い商品を販売しているはずなのになかなか売れない
- CPCがなかなか下がらない
これらは、デジタルマーケティングの担当者の多くが抱える悩みですが、どれほど魅力的に見える商品を開発したとしても、その後適切なマーケティングが打ち出せなければ売上は伸ばせません。
適切なマーケティングを実施するためには、「ブランディング」の向上が欠かせません。
その中でも、近年話題になっている「ストーリーブランディング」について、本記事ではわかりやすく解説します。
目次
ストーリーブランディングとは?
ストーリーブランディングとは、ブランディングの情緒的便益に働きかけるマーケティング手法です。商品の機能性に着眼するのではなく、商品に情緒性(感情)を付加することで顧客の感情を揺さぶるブランディング手法のことをいいます。
ストーリーブランディングを理解するためには、ブランディングについての理解が必要不可欠なため、まずはブランディングに関して解説していきます。
そもそもブランドとは?
ブランドとは、生活者ひとりひとりの心の中にある商品や企業へのイメージのことです。もう少し詳しく定義すると、以下のように説明できます。
◆ブランドとは
ブランドとは、生活者から見た独自の役割を築き、感情移入が伴ったモノやサービスのこと。
上記の説明通り、ブランドは生活者が心の中に持っているものでしたが、恣意的にブランドを生み出すという意味でブランディングという言葉が生まれました。
ブランディングを実施することで以下のメリットがあります。
- 価格プレミアムが実現する
- M&Aの売却益が大きくなる
- 人材採用のコストが軽減される
- 販管費が削減される
元々は売上を増大させるためのマーケティング「戦術」であったブランドは、1980年代後半の値下げによる顧客獲得の課題を解決するために「戦略」へと昇華されました。
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ブランディングを説明するときには、ブランド認知、ブランド側面などさまざまな面から説明されますが、以下4つの側面から説明することができます。
- 機能的便益
- 情緒的便益
- 自己表現便益
- 社会的便益
それぞれ抽象的な概念のため、ここではスポーツメーカーのナイキの例をとって説明をします。
機能的便益
機能的便益は、ブランディング戦略においては重視される傾向があります。わかりやすくいえば、機能的便益とは商品そのものの良さのことです。
例えばナイキのシューズで考えた場合、ナイキのシューズには「走ったときの衝撃が小さい」という機能的便益があります。
機能的便益が低いと、商品が購入されたとしても低評価になってしまうデメリットがあります。したがって、企業が第一に取り組むのは機能的便益の向上となります。
情緒的便益
情緒的便益とは、そのブランドに対して感じている心理状態のことです。例えばナイキの場合は「時代を先駆けている」というイメージがあるかもしれませんが、これは情緒的便益と判断されます。
先ほど説明した機能的便益も重要ですが、実際に顧客が商品を購入する際には、情緒的便益が重視されている傾向が高いと『ブランド論』の著者、D.Aアーカーは説明しています。
顧客を合理的な人間と考えた場合は機能的便益が重視されることは容易に想像ができることでしょう。ただし、顧客も人間です。
したがって、どれだけ商品の機能性に惹かれて商品を購入したと言い張っていても、どこかに情緒的価値による他社商品との差別化が図られているとD.Aアーカーは述べています。
例えば、あなたが靴を買うときには商品の機能性の良し悪しで決めているでしょうか?実際は、「そのブランドが好きだから購入している」ケースは散見されます。
したがって、模倣された商品が多い中でも、他社製品との差別化が図れるのが情緒的価値であり、その具体的な手法としてストーリーブランディングがあると認識しておくとわかりやすいです。
自己表現便益
3つ目は自己表現便益です。自己表現便益とは、そのブランドを身に着ける、所持することで顧客が自己表現をできる価値のことです。
ナイキの例で言えば、「ナイキを身に着けることでまるでスポーツマンになったかのような気分になれる」のであればそれは自己表現便益がブランドの中に含有されている意味になります。
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社会的便益
社会的便益とは、ブランドが顧客をある社会的集団に所属させる力のことです。例えば、ナイキを着ることで「スポーツをこよなく愛する集団」という意識を持てるのならば、ナイキには社会的便益があると言えます。
他にも、スターバックスに行くことで顧客が、「喫茶店を限りなく楽しむ会員集団に所属している。他の人と交流がなかったとしてもそうなのだ」という気持ちになれるのであればスターバックスも社会的便益を持っていると言えます。
4つの便益はどれも大切ですが、ブランディングをする際には機能的側面よりもその他の便益の方が顧客の高いロイヤルティを引き出すことができます。そのため、情緒的便益の方がブランドの差別化には利用されているのが現状です。
ストーリーブランディングの意味
ここまでブランディング・ブランドの説明をしましたが、ストーリーブランディングの意味は以下の通りです。
◆ストーリーブランディング
ストーリーブランディングとは、効果を生むブランドを確立するためにストーリーを利用するブランディング方法。
感情を揺さぶり強いブランドの印象を顧客に対し残すのに有用です。
製品や会社が持つストーリー性に注目することで、顧客が自社商品のファンになりやすい特徴があります。
ストーリーブランディングはジム・シグノレリによって提唱された新しいブランディングの手法です。
USP(ユニーク・セリング・ポイント)による差別化といった古いマーケティング手法を刷新した方法だとジム・シグノレリの著書『ストーリー・ブランディング(2017)』で説明されています。
ストーリーブランディングは顧客の「情緒的便益」に強く貢献する方法で、実施にはマーケッターとしての長い経験は不要なのも特徴です。
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もう少しストーリーブランディングを理解するために、以下の3パターンの例を考えてみましょう。
- これは甘くて美味しいリンゴです。
- これは無農薬のリンゴです。お子様に食べさせやすいように、無農薬のりんごを作りました。
- これは絶対に不可能と呼ばれていた無農薬の奇跡のりんごです。生産者の木村さんは実に8年間の歳月をかけて、奇跡のりんごを生み出しました。
土にこだわった奇跡のりんごは他のりんごと比較にならないほど甘く、そして身体にも優しいりんごです。想像するだけで唾を飲み込んでしまうような甘美な匂いが想像できます。
文章の長さが違うため情報量に差異はありますが、上記の中で最も印象を持つのは3つめのキャッチコピーではないでしょうか。
1つめは、他のりんごとの差別化が図られていないりんごの説明になってしまっているため、顧客に対し印象を残すことができません。
2つめは「子供向け」の「無農薬」という機能的ベネフィットはありますが、それ以外の要素が乏しいため、ブランディングに成功することは難しいでしょう。
一方で 3つめの例はどうでしょうか。他の2つにはないストーリー性が加わっているためブランドを確立しやすく、差別化も図りやすいと感じたのではないでしょうか。
このようにストーリーブランディングを活用することで、模倣されやすい機能性(おいしさ)などの要素で差別化を図るのではなく、ストーリー性というわかりやすく独自性のある要素で他社との差別化を図ることができます。
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なぜストーリーブランディングは注目されているのか
ストーリーブランディングが注目され始めた理由には以下5点が挙げられます。
- ものが溢れるようになった
- すぐに買えるようになった
- 機能の差がなくなった
- デジタルマーケティングの市場が成長しているから
- SNSの普及
それぞれ詳しく解説します。
ものが溢れるようになった
まずはものが溢れるようになったのが理由のひとつです。私たちの身の回りにはものが溢れかえり、必要でないものも既に多くあるはずです。
必要なものが周りにあり、その商品の機能性が十分である場合、わざわざ別のものに変えるにはスイッチングコストがかかり面倒になります。自社のものを新たに手に取ってもらうのが難しいのです。
すぐに買えるようになった
ネットショッピングを利用することで、私たちはどこにいてもものを買えるようになりました。
ネットで買った商品が翌日に届くことは既にデフォルト化しており、ものを手にすることの貴重性はもうありません。気軽に買えるからこそ「この製品・このメーカーのものでないとダメ」という意識が消費者の中でも薄いのです。
機能の差がなくなった
技術が発展したおかげで、良くも悪くも商品の機能性に大差がなくなりました。例えば、どのメーカーの車を乗ろうとも、ある程度は利用できますし、こだわる人でなければ機能の差は微小です。
特に、生活必需品であればある程度のクオリティは担保されており、既にコモディティ化した商品の機能性の差異は既にほぼありません。
そんな中で自社の製品・サービスを選び取ってもらうにはストーリーブランディングが大きな意味を持つのです。
デジタルマーケティングの市場成長
デジタルマーケティングが大衆化したことも要因です。株式会社サイバー・バズが実施した調査によると、国内のソーシャルメディアマーケティング市場は2018年から成長を続けており、2025年には2020年の2倍(1兆円)に到達すると説明しています。
マーケティングという活動そのものが世の中に浸透し、今までなかった会社にもマーケティング部が立ち上がり始めることは珍しくなくなりました。
こうした中、既に一般化したUSPなどのマーケティング手法では他社との差別化ができなくなったことも理由として挙げられます。
SNSの普及
SNSの普及により、情報の伝達が早くなったことも要因です。SNSが普及したことでストーリー性を持った商品が拡散されることも増えました。
「共感」がよりわかりやすい「リツイート」「共有」「いいね」といった形で数字に現れるようになりました。
このように今までのマーケティングがコモディティ化することで、新しいマーケティングの手法を検討する必要が出てきました。
わかりやすく他社と差別化ができ、そしてSNSとも親和性の高いストーリーブランディングが注目され始めた理由として頷けます。
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ストーリーブランディングのメリットは以下3点です。
- 伝わりやすい
- 共感を得やすい
- ファンを獲得しやすい
それぞれ詳しく解説します。
伝わりやすい
まずは伝わりやすいのがストーリーブランディングの特徴です。ストーリーブランディングは機能よりも情緒を重視します。
顧客の感情に訴えかけるため、印象に残りやすく伝わりやすい特徴があります。
共感を得やすい
機能性に注目したブランディングよりも共感を得やすいのもストーリーブランディングの特徴です。
ストーリー性は感性に訴えかけるため、刺さる顧客の共感を得やすく拡散性が高いのも特徴です。
ファンを獲得しやすい
共感をしたファンは商品の機能性に惹かれているのではなく、ブランドに惹かれるため、その後も顧客が離れづらく、ファン化しやすいのがメリットです。
ファンの獲得はLTVの改善につながるため、企業の長期的な経営の視点からみてもプラスです。
ストーリーブランディングのコツ
ストーリーブランディングをする際は、あくまでも顧客の視点にあったストーリーを構築することが求められます。
企業に寄り過ぎた目線だと宣伝感が色濃く出てしまうため気をつけましょう。以下のポイントを意識して進めていきましょう。
- 主人公はユーザーである
- 行動を促す
- エンディングに促す
それぞれ詳しく解説します。
主人公はユーザーである
ストーリーブランディングの主人公は、顧客であるユーザーでなければなりません。
ユーザーがどのような課題を持っているのかを明示することで初めて、顧客は自身と主人公を重ねるようになります。
行動を促す
主人公の悩みを解決するプランを示すことが大切です。この解決方法が、顧客を商品購入へと突き動かす起爆剤となります。
ただし、商品を購入させて終わりでは意味がありません。「商品を購入したが失敗した」とユーザーに思わせないためには、購入後に返品可能期間を設けるなどの処置が必要です。
エンディングに導く
行動を促した後は、エンディングへと導く必要があります。ユーザーは最終的に商品を購入することで問題を解決できたと実感できなければなりません。
エンディングを導くことができないと、顧客は自社のファンになることはありません。したがって、最後の問題解決にはそれを可能にする企業努力が必要です。
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ストーリー・ブランディングはトップマーケッターのジム・シグノレリのストーリーブランディング戦略を翻訳した本です。
「今までの自慢話をする広告」から、「価値を創造する広告」を作るために利用できるストーリー・ブランディングについて詳細に説明した本です。
物語の力を使ってブランディングを行うストーリーブランディングが実例と共に記載されている本なので、一度手に取ってみるとよいでしょう。
まとめ
本記事ではストーリー・ブランディングをわかりやすく解説しました。
ストーリーブランディングは他のマーケティング手法が一般化されればされる程、他社との差異性が際立つブランディング戦略です。
一方で、全ての商品にストーリーブランディングが有用だったとの結果は出ていないので、自社のブランディングにストーリーを用いるのが最適かには、議論が必要になるでしょう。
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