企業の組織構造にはいくつもの種類がありますが、なかでも「事業部制」は国内外を問わず多くの大企業が採用している組織形態です。
では、なぜ多くの会社がこの組織形態にするのでしょうか?
本記事では、事業部制の基本的な構造や、混同されがちな他の組織形態との違い、メリット・デメリットを解説していきます。
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事業部制とは
事業部制は、日本のみならず世界的に用いられている組織形態の1つです。そのほかの代表的な組織構造としては、マトリクス組織や機能別組織といったものが挙げられます。
自社がもつ技術や強みを別事業にも応用することで利益をあげられるため、一社でさまざまな事業を展開している企業があります。そのような企業が、主にこの組織形態を採用していることが多いです。
なぜなら、事業ごとに部署を設置していくことで、本社部門の負担を軽減でき、事業ごとに素早い判断が下せるようになるからです。いくつもの事業を行ったり、地域的に事業を広げていくと、本社部門ですべての事業を管理し判断をしていくことは困難になります。
ですが、事業における意思決定を行う権限や責任を、本社部門から事業部に引き渡すことで、各事業部の素早く的確な判断が可能になります。さらに、経営的視点をもつ人材の育成にも役立つのです。
事業部制の特徴
事業を推進していくために必要な機能を、各事業部が保有していることが特徴です。例えば、事業を行うためには「マーケティング」や「営業」、「生産」、「購買」といった機能が欠かせませんが、それが全て各事業部におさまっています。
このように、各事業部が一つの会社のようになっていることで、仕事を進めるうえで部門間や本社部門とのコミュニケーションを日常的にとる必要がなく、迅速に事業を遂行していけるのです。
しかし、事業運営に必要なすべての機能を有するのが原則としつつも、完全にすべてを有しているわけではありません。事業を行うのに欠かせない「人事」や「経理」、「製造」、「販売」といった機能は各事業部では扱わず、組織全体で共有している企業が一般的です。
事業部制組織の歴史
世界でこの組織形態が採用されたのは1920年代のことで、アメリカのデュポン社が初めて事業部制にしました。デュポン社に続いて導入したのがゼネラル・モーターズ社で、これを機に本格的に事業部制が広まったとされています。
一方で、日本においては1933年、パナソニックがまだ「松下電器産業」と呼ばれていた時代に、国内で初めてこの組織形態にした企業となりました。現在では事業部制は広く取り入れられ、数多くの企業に採用されている組織形態となっています。
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組織運営とは?管理職に必要な能力やポイントを解説事業部制の3パターン
この組織形態にはさらに3つのパターンに分けることができます。それは、「製品ごと」、「地域ごと」、そして「顧客ごと」に事業部を分けて設置するパターンです。
それでは1つずつ解説していきます。
製品やサービスで分ける
製品やサービスごとに事業部を配置する「製品別事業部制」は、導入しやすい事業部制のパターンです。
サービス別で事業部を分けると、自社で取り扱っているサービスごとに事業部をつくることになるため、その製品について詳しい人材が集まります。したがって、その事業について特化したプロフェッショナルを育てられることができます。
例えば飲食に関する事業を展開している企業であれば、下記のように事業部をわけられるでしょう。
- 居酒屋事業
- カフェ事業
- レストラン事業
優れた製品やサービスを生み出しながら、事業に関する営業や問い合わせといった業務も事業部ごとに委任できるため、効率的に利益を上げられるのです。
地域で分ける
続いて、地域ごとに事業を展開している組織は、地域によって事業部を構成する「地域別事業部制」を採用します。
例えば、東京が本社だとしても、さまざまな地域・国に展開しているのであれば、「関西地方」や「関東地方」といったように、ある程度まとまった地域で切り分けて事業部を配置して運営したほうが、効率的に事業を管理できますよね。
また、現時点では全国展開または海外進出をしていなくても、今後そのようにしていくことを考えている場合は、地域別に事業部を分けておいた方が事業展開をしやすくなるでしょう。
顧客で分ける
自社が提供するサービスや製品の顧客に何らかの傾向があるケースでは、顧客の特性に応じて事業部をつくる「顧客別事業部制」を採用する企業もあります。
例えば、「若くて流行に敏感な層をターゲットにする事業部」や「保守的で伝統を重んじる高齢者をターゲットとする事業部」といったように分けることができます。このように顧客のライフスタイルや価値観などに分けて対応することで、さらなるニーズを発掘できるようになるのです。
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マネジメントとは?業務や能力が高い人について解説事業部制とよく似ている「カンパニー制」とは
事業部制と共通点が多い組織形態が「カンパニー制」です。これは、社内でいくつもの事業を展開している組織が主に導入している経営システムとなります。
各事業部は同じ社内で活動しますが、事業部を本社とは別に独立している企業(カンパニー)と位置づけて、独立採算制を採用している点が特徴です。カンパニー制はアメリカで生まれて、1990年代に日本で採用する組織が増えてきました。
多角的な経営をしていたり、いくつもの事業を展開している組織においては、何か意思決定をするたびに多くの手順を踏む必要があります。また、関わる人も多くなるため、時間と手間がかかることが課題です。そこで、それぞれのカンパニーごとに意思決定から予算や人事を決められる裁量権を委譲することで、一つの企業のように迅速な経営がなされるのです。
権限が委譲されることで責任の所在も明確になるというメリットや、効率的で迅速な経営により利益を上げやすいという特徴もあり、近年注目されています。
カンパニー制を導入した企業事例
1994年に赤字に陥っていたソニーが業績を改善するためにカンパニー制を導入した結果、実際に大きな成果が出たことで、当時も大きな話題となりました。
さらにトヨタでも、プリウスやランドクルーザーなどの軸をもとにカンパニー制を導入しています。
しかし、すべての組織においてカンパニー制が最適というわけではありません。実際に、一度カンパニー制を採用したが廃止している富士ゼロックスやNECなどの事例もあるため、慎重な検討が必要です。
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組織図とは?つくる目的やメリット、わかりやすい作り方を解説事業部制と似ている組織形態の違いとは
事業部制、そしてカンパニー制をそれぞれ解説しましたが、それでもやはり「どこがどのように違うのか?」と感じてしまうかもしれません。
両者の共通点は、『事業ごとに裁量権を委譲することで迅速な意思決定をしていく』という、利益追求型であるという点です。
しかし、最も大きな違いは「カンパニー制は独立型で、事業部制は独立型ではない」という点にあります。つまり、事業部制組織では経営に大きく関わる重要な判断や人事に関することは、本社部門や組織全体とともに判断する必要があり、自分たち、つまり事業部だけでは決められないことが時折でてくることになるのです。
したがって、カンパニー制と比べると経営スピードは遅くなります。
一方でカンパニー制では採用や投資といった権限も渡されるため、事業部制組織に比べて裁量権が大きくなります。これにより、「カンパニー」制という名前の通り、企業内とはいえ1つの独立している企業とみなされるのです。
機能別組織と事業部制組織の違いとは
もう一つ、事業部制と混同されがちな組織形態が「機能別組織」です。これらは似ているようで全く別の組織形態なので注意しておくべきでしょう。
機能別組織とは、「マーケティング」や「営業」などの事業に必要な「機能」ごとに部署を設置する組織形態になります。
したがって、マーケティング部ではマーケティングを行い、営業部では営業を行うため、それぞれの各部署でスキルやノウハウの専門性を高められるというメリットを得られます。ですが、各部署で自分の仕事だけに取り組み責任を持つといった形式なので、部署間の連携が難しくなる点がデメリットです。
このよう、事業部制組織とはまるで異なる仕組みであるため、その長所や短所もまた変わってきます。したがって、メリットやデメリットを考えたうえで、自社に最適な組織形態を導入するべきでしょう。
事業部制を導入することで得られるメリット
それでは、事業部制を導入するメリットを見ていきましょう。
事業部制で得られるメリットが下記の3つです。
- 責任の所在が明らかになる
- 経営スピードが速くなる
- 経営者の視点をもって考えられる人材を育成できる
それでは1つずつ解説していきます。
責任の所在が明らかになる
まず、事業部制組織のわかりやすいメリットは、責任の所在が明らかになることです。
事業部制組織では組織図がかなりシンプルになるうえに、一人が複数の事業部の責任者を兼任することも減ります。そのため、それぞれの事業の責任が誰にあるのかが明確になるのです。
例えば、機能別組織では、「マーケティング」や「営業」などで分けて構成していくため、それぞれ自分に割り当てられた職務の責任しか負うことはありません。したがって特定の事業で業績が悪くなった場合でも、どの部署にどの程度の責任があるのかが判然としないのです。
事業が悪化した場合は、組織の経営層は悪化の理由と責任がどこにあるのかをすぐに突き止めて、対応策をとらなければなりませんが、機能別組織ではこの作業が難しくなります。
しかし、事業部制組織では、それぞれの事業部で業績として明確な数字を出せるので、責任を明確にすることができるのです。
経営スピードが速くなる
事業部制組織で最も大きなメリットは、意志決定や行動を迅速化できることです。
現代のビジネス環境はスピード感が重要視されており、何をするにも本社や組織全体の承認や判断を待っていては、あっという間にライバルに追い抜かれてしまいます。つまり現代では、腰が重い組織は生き残れない可能性が高いのです。
しかし事業部制を導入することで、権限が事業ごとに譲渡されるため、事業を運営していくうえでさまざまな決定を自分たちで下すことができます。したがって、市場の激しい変化にもすぐに応じることができ、事業の成長に貢献するでしょう。
経営者の視点をもって考えられる人材を育成できる
事業部制組織は、人材育成の面でもメリットがあります。事業部制組織では、各事業部が一つの会社のようにマーケティングや営業、生産などを統合的にみて経営していくため、経営者の視点をもって考えらえれる人材を育成できるのです。
対して、機能別組織のように機能ごとに部署が分かれている組織では、「マーケティングならマーケティング」や「営業なら営業」といったように、自分たちの専門の仕事しかできないため、全体を俯瞰して運営できる人材の育成が困難です。
また、経営者のように全体を俯瞰して仕事を進めていくことは、自分が何のためにその業務を行っているのかや目指す目標がわかりやすくなるため、従業員のエンゲージメントを向上させてくれる効果も期待できます。
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組織開発とは?注目される理由や基本的なプロセス、具体的な手法を解説事業部制を導入することで生じるデメリット
事業部制を導入することで多くのメリットが得られることがわかりましたが、一方でデメリットも生じることに注意しなければなりません。
事業部制組織のデメリットが下記の2つです。
- 経営資源のムダやコストが生じる
- 各事業部の間でコミュニケーションが減る
それでは1つずつ解説していきます
経営資源のムダやコストが生じる
まず1つ目のデメリットは、機能や経営資源の重複が生じるためコストが増えることです。事業部制組織では、それぞれの事業部ごとに経営に必要なすべての機能が揃っていることが大きな特徴ですが、同時に無駄やコストの原因にもなります。
事業部制では、各組織が機能を共有することでコストカットができる場合でも、機能を独立して保有・運用するためどうしてもコストが増えてしまうのです。
各事業部の間でコミュニケーションが減る
もう一つのデメリットは、それぞれの事業部間でのコミュニケーションが減ることです。
事業部制組織では、事業部ごとに独立して運営していくため、他事業部との連携が減ってしまいます。これにより、さまざまな事業部が交流することで生まれたであろう、新たなアイデアやサービスのヒントのチャンスが無くなるという弊害が生じます。
まとめ 事業部制について
ここまで事業部制の基本的な構造から、カンパニー制との違いやメリットとデメリットを解説してきました。
現代は環境の変化が激しく、そのスピードも増しています。そのなかでライバルに打ち勝ち競争優位性を保っていくためには、組織も環境の変化に対してスピード感のある対応をしていかなければなりません。
そのために、事業部制組織という組織形態が自社と適しているかどうかを考えて、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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