「学校の授業はわかる?」「うん、わかってる」「宿題はやった?」「もうやったよ」――。
親と子の日常的な会話ですが、いざ期末テストの答案が返ってくると平均点以下。実は授業を全く理解しておらず、親の認識と子供の実態に大きなズレがあったと発覚する。組織の原因究明がうまくいかない理由も、これと全く同じ構図です。今回は親子の認識のズレを題材に、正しい原因究明の進め方を解説します。
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目次
都合の良い報告と「なぜなぜ分析」の落とし穴
子供が親に「授業はわかってる」「宿題はやった」と都合の良い報告をする心理の裏には、「怒られたくない」「心配をかけたくない」「面倒くさいからその場をやり過ごしたい」という感情が隠れています。親はその「言葉」を疑わず、テストの点数という「結果」が出るまで、我が子が順調に学習していると思い込んでしまいます。しかし、テストの点数という残酷な事実を突きつけられた瞬間、親は慌てて「なぜ点数が取れなかったの!」と問い詰めます。子供は「先生の教え方が悪い」「テストが難しすぎた」と言い訳をし、根本的な原因究明には至りません。
実は、ビジネスの現場で「なぜなぜ分析」が機能しない根本的な理由も、これと全く同じ構造を持っています。 部下が「業務は順調です」「問題ありません」と耳あたりの良い報告をしてくるのをそのまま信じていたら、後になって想定利益が大幅にマイナスになったり、深刻なクレームや納期遅延が発覚したりします。慌てて再発防止のための原因究明会議を開いても、担当者からは「一応やりました」「他部署との連携がうまくいきませんでした」といった言い訳が飛び交うばかりです。
このような会議では、過去の失敗に対する犯人探しに無駄な時間が割かれ、「なぜ」を繰り返すうちに、経験豊富な人の過去の成功体験や、声の大きい人の感覚が正解になってしまいます。組織に横たわる「上司と部下の認識のズレ」を放置したまま、耳あたりの良い報告や個人的見解だけを集めて原因を深掘りしようとしても、再発防止策は抽象的なスローガンにとどまり、原因究明の取り組みそのものが形骸化するという深い落とし穴にはまり込んでしまうのです。
「言葉は見解、行動こそ事実」の大原則
この認識のズレを正し、形骸化した原因究明から脱却するための第一歩は、「言葉は見解、行動こそ事実」という大原則を組織の隅々にまで徹底することです。
テストで悪い点を取った子供は、親に怒られて「次はもっと頑張る」「これからは気をつける」と宣言するでしょう。親もその言葉を聞いて安心しがちですが、これらは子供の感情や個人的な「見解」に過ぎません。ビジネスの会議においても、「次から気をつけます」「他部署に配慮して進めます」といった言葉は、具体的な行動を示しておらず、責任の所在を曖昧にするため「禁止ワード」にするべきです。 真の原因究明においてベースとなるのは、誰の目にも明らかな「検証可能な事実」です。先ほどの子供の例で言えば、「毎日17時から机に向かったのは15分だけだった」「教科書ではなくスマホを開いていた」という目に見える「行動」こそが揺るぎない事実です。
組織のルールには、挨拶のように守ろうと思えば誰でもできるルールと、個人のスキルに影響されるような難易度が高いルールの2種類が存在します。原因究明の会議では、個人的な見解や「~なはずです」といったノイズを一切排除し、2種類のルールそれぞれが守られていたかという事実情報のみを議論の起点に据えることが不可欠です。事実情報から目を背けず、ネガティブな事象も想定内の事実として冷静に受け止めることが、正しい解決への道を開きます。

山積みの問題から「問題の重心」を特定する
事実情報が揃ったら、次はいよいよ原因の深掘りに入ります。ここで重要なのは、表面的な問題に振り回されず、「問題の重心(センターピン)」を見つけ出すことです。
子供の成績が悪いという結果に対しては、「朝起きられない」「ゲームばかりしている」「基礎学力がない」など、複数の要因が存在します。親は焦って「塾に通わせる」「参考書を買う」「ゲームを取り上げる」と同時に対策を打ちたくなりますが、これでは子供がパンクしてしまいます。ここで必要なのが、最も横断的に悪影響を及ぼしているコアな問題を見つける「結果の因数分解」です。因数分解を進めると、例えば「夜遅くまでスマホをいじったことによる”眠気に起因する集中力低下”がすべての元凶(重心)である」と気づくかもしれません。
ビジネスの現場でも同様に、業績低迷やミスが重なっている場合、無数の問題の中から重心を特定しなければなりません。重心を見つけたら、現場の社員が「何をすればいいのか」という個別具体的な行動ルールに変換できるまで、徹底的に分解を繰り返します。 この分解プロセスで有効なのが、正しい順番で用いる「5Whys(なぜを5回繰り返す)」です。「工程別KPIの設定」から始まり、「逸脱の把握(事実)」を行い、そこから「5Whys」で深掘りをして、「部門別行動への分解と施策決定」へと進めます。「コミュニケーション不足」といった曖昧な言葉を結論にせず、誰のどのような行動が原因であったかを事実ベースで明らかにすることが、再発防止の絶対条件となります。

再発防止へ導くズレないゴール設定と行動の是正
事実に基づく原因究明ができたら、それを再発防止に向けた具体的な「行動計画」へと落とし込みます。ここでの鍵は、会議の性質を、言い訳を聞く「過去話(原因分析)」から、具体的な対策を合意する「未来話(対策とコミット)」へと移行させることです。
行動計画の設計において極めて有効なのが、役割を明文化した表の活用です。組織図によって誰が自分の上司であり、誰に報告・相談すべきかという指揮命令系統を確立したうえで、各ポジションに「いつまでに」「どのような状態」を求めるのかを明確にし、責任の所在をはっきりさせます。 子供への指導も同じです。「明日からもっと勉強しなさい」という曖昧な指示では、子供はどう行動していいか迷ってしまいます。「毎日18時までに、算数ドリルを2ページ終わらせて、丸つけまで終わった状態で机の上に置いておく」というように、検証可能な「ズレないゴール設定」を提示することが重要です。
そして、ここからが親(上司)の最も重要な役割です。評価の基準はあくまで結果(定量)ですが、結果の数字だけを見るのではなく、定量目標を達成するために部下がとった「行動」をしっかりと評価することが求められます。 ただし、前述の通り「行動のルール」は個人のスキルに左右され、難易度が高いものです。子供が18時まで机に向かっていた(行動した)のに、ドリルが1ページしか進んでいない(結果が出ていない)場合、親は「行動の質や方向性がズレている」という事実を認識しなければなりません。スマホが横にあって集中できていないのか、そもそも解き方が分からず止まっているのか。上司は、目標達成のために行動している部下を認めつつも、その行動が定量数値に反映されていない場合には、責任をもってやり方を「是正」する必要があります。マネジメントとは人々を成果に導き、成長させる仕事です。一度決めたルールは途中で諦めず、徹底されるまで反復継続して確認し続けること。これが、認識のズレをなくし、問題の再発を防ぐ唯一の道です。

記事のまとめ
親の認識と子供の実態のズレは、都合の良い報告を鵜呑みにし、検証可能な事実を確認しなかったために起こります。ビジネスの現場でも、担当者の「順調です」「気をつけています」という個人的見解を信じ込んだ結果、原因究明が単なる言い訳大会や犯人探しへと堕落してしまいます。
この落とし穴から抜け出すためには、「言葉は見解、行動こそ事実」の大原則を徹底し、誰の目にも明らかな行動と数値だけを議論のスタートラインにしなければなりません。事実を集めた後は、山積みの問題から「問題の重心」を特定し、具体的な行動ルールになるまで「なぜ」を繰り返して因数分解を行います。
最終的には、役割を明文化した表を用いて「いつまでに」「どのような状態にするか」というズレないゴール設定を行動計画として落とし込みます。上司は、定量目標に向けて行動する部下を評価すると同時に、結果に結びついていない行動は躊躇なく是正するというマネジメントサイクルを回す必要があります。 今日から、言い訳と見解を排除し、事実ベースの迷いなき原因究明と行動是正を実践して、目標達成に向けた強い組織を作り上げてください。
プロフィール
神戸大学を卒業後、大手商社の営業職に従事。
その後、外資系金融機関へ所属。新卒から15余年をセールスマンとして活動し、現場での顧客折衝一筋のプレーヤーとして従事。
自身の将来を模索する中、マネジメントへの関心から識学と出会う。これまで学んできた「人を動かす」方法とは180度異なる識学を広めることで、「情報不足が原因で臆する人の背中を押す役割を果たしていきたい。」という想いで、現在は識学コンサルタントを務める。

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