少子高齢化に伴う労働力不足が深刻化する中、女性のキャリア形成と育休の問題は避けて通れない課題です。しかし、SNSでは「育休リスクがあるから女性を雇えない」という経営者の本音が物議を醸すこともあります。
果たして、企業は「育休」というリスクとどう向き合うべきなのか。元マーケティング会社役員で採用経験豊富な玉村氏が、株式会社識学のコンサルタント乾 一文に「キャリア断絶を防ぐ組織のルール」について切り込みました。
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「育休は困る」という経営者の本音をどう捉えるか
玉村氏(以下、敬称略): 本日は採用や能力開発について伺いたいのですが、以前SNSで「産休・育休をされると困るので、若い女性は正社員として雇用していない」という中小企業経営者の投稿が大きな議論を呼びました。本音では雇いたいけれど、弱小企業ではリスクが取れないという切実な声です。これについてはどう思われますか?
乾: 正直に申し上げて、仕事をやめられたり長期離脱されたりするのは企業にとってダメージが大きい、というのはその通りだと思います。せっかく仕事を覚え、投資してきた期間もありますから。「採用しにくい」という感情が生まれるのは、組織運営の観点からは理解できる側面があります。
玉村: やはりダメージは大きいですよね。特に人数の少ない組織では。
乾: ただ、そこで雇わないと決めてしまう前に、会社側に仕組みを作る余地があると思うんです。例えば、この仕事は自宅でできるという条件を提示したり、逆にお互いのメリットが合致するルールを交渉したり。お互いにメリットがない会話は成立しませんが、働き方を提案し、ルール化することは今の時代ならいくらでも可能ではないでしょうか。
「100か0か」ではなく、パフォーマンスに見合った「60」の給与
玉村: 乾さんは以前、女性が多くいらっしゃるメディアの会社にいたとのことですが、そこでは産休や育休を取る方々に対して、どのように業務を進めていたのでしょうか。
乾: 当時の職場は、人がいたので誰かが引き継いで回していける状況でした。復帰して管理職をされている方もいましたね。ただ、それはある程度規模があったからできたことだと思います。
玉村: やはり小さい会社の場合だと、そうはいきませんよね。そこには、一律にこうすればいいという処方箋みたいなものはおそらくないのではないかと思うのですが。
乾: おっしゃる通り、会社に合わせた工夫が必要です。ただ、今はネット環境も在宅ワークも進んでいます。例えば、いなくなったら新しく誰かを採用して引き継ぐコストを考えれば、「この事務業務だけは自宅でやってくれませんか」と切り出すことは、今ならいくらでもやれるはずなんです。
玉村: 会社にとっても、スキルのある人に辞められないメリットがあるわけですね。
乾: そうです。会社にとっても働く人にとっても良くないといけない。そこで、100働けたのが60になるなら、それに見合ったお給料にするという交渉をして、キャリアを断絶させない仕組みを作ることが重要です。

なぜ男性育休への風当たりは強いままなのか
玉村: 育休についてもう一つ。私は第1子の時は妻と一緒に子育てをしましたが、第2子の時は非常に忙しく、ほとんど参加できませんでした。政府も旗を振っていますが、未だに男性が育休を取ることへの風当たりが強いのはなぜだと思われますか?
乾: ルールがあるなら取ればいいのに、と私は思います。でも、皆さん忖度したり、損をするんじゃないかと不安に思ったりしているんですよね。それは、会社の査定や評価の仕組みが不明確だからです。
玉村: 先が見えないから、怖いわけですね。
乾: はい。休んだらどうなるかわからないから休めない。逆に「休んだら一時的に評価はここまで落ちるけれど、こういうルールで復帰すればこう挽回できる」というキャリアのイメージが明確にあれば、夫婦で「今はちょっと不利だけど、家族のためにこの選択をしよう」と意思決定ができるはずなんです。
玉村: なるほど。地雷があるかもしれない状態を取り除くことが、会社全体の役割だと。
乾: その通りです。ルールに書いてあることを守っていれば大丈夫、と従業員が認識できるよう、会社全体として実践すること。(休むことによる)リスクがあるなら、それはこの程度だよと数値や基準で見せる。給与の戻り方や、どの等級から再開するのかといった基準がしっかりあれば、あとは選ぶのはあなたですよ、と家族で相談してもらえるようになります。

識学が考える「ポジティブアクション」の是非
玉村: 昨今では女性管理職を増やすための「ポジティブアクション(優遇措置)」もあります。実力主義の識学として、男女で基準が違うことはどう考えますか?
乾: 識学では結果と事実での評価を優先します。ただ、国が推進していて、会社がそれをルールとして公表・開示しているのであれば、致し方ないかなと思います。障害者雇用と同じで、一定の枠を設けることが公にされていれば、それは一つのルールです。
玉村: 本来は実力で選ぶべき枠だとしても、組織の戦略として決めていればいいということですね。
乾: はい。同じ成績の人が並んだ時に「組織には女性の視点が必要だから、今回は女性を優先する」という方針が決まっているなら、それは方針としてアリです。ただし、あくまで一定水準(実力)を満たしていることが前提ですが。
未来をデザインできる組織へ
玉村: 最後に、これから識学を導入しようとしている、あるいは女性活躍を推進したい経営者の方へメッセージをお願いします。
乾:何をやってもらいたいかを明確にすること、これに尽きます。会社を運営する上で必要な人材に、本来、男女の区別はないはずです。
玉村: 能力や今の状況に応じて、最適な仕事をしてもらう。
乾: そうです。そしてそれが会社にとってもメリットなんだという姿勢を見せること。お互い様ですから、給与が一時的に下がる時期があってもいい。その代わり「働き続けたいならこういう選択肢がある」「復帰したらバリバリ稼いでください」という仕組みが整っていれば、働く側も将来をデザインしやすくなり、結果として採用にも繋がっていくはずです。
玉村: 曖昧さを排除し、ルールでお互いのメリットを一致させる。これがキャリア断絶を防ぐ唯一の道ですね。

まとめ
今回の対談を通じて、優秀な人材を維持するためにはフルタイムか否かという二択ではなく、一部の業務を切り出して在宅で継続できるような柔軟な仕組み作りが不可欠であることが見えてきました。貢献度に見合った給与設定を明確にすることで、社内の不公平感をなくし、キャリアの継続を可能にします。
大切なのは、休んだ際のリスクと復帰後のキャリアパスをあらかじめルールとして明示し、社員が抱く「予測不能な不安」を解消することです。「何をやってもらいたいか」を男女問わず明確にし、個々の状況に応じた最適な役割を提供できる組織こそが、これからの人材枯渇時代を勝ち抜く組織となるでしょう。
プロフィール

株式会社識学 上席コンサルタント。和歌山大学経済学部を卒業後、株式会社サンケイリビング新聞社に入社。女性をターゲットとした販売企画や営業職として22年間従事。2015年に中小企業診断士として登録すると、組織の課題を抱える企業が多いことに気付く。自身もマネジメントに悩んでいた経験から識学に出会い入社。

玉村 嘉隆氏(聞き手)
約20年の経験を持つフリーランスSEOコンサルタント。事業開発・経営企画から検索エンジン開発まで幅広いキャリアを経て独立。SEOを軸にリスティング広告・サイト制作ディレクションなど、集客全般をワンストップで支援している。
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