組織において、リーダーシップを発揮してチームを正しく導いてくれる存在は貴重です。
しかし、生まれながらにしてリーダーシップや統率力を持っている人がいる一方で、現場経験を積む中でリーダーシップというスキルを育む人も多くいます。
本記事では、リーダーシップを発揮する方法やリーダーシップの種類などを解説していきます。
目次
リーダーシップの定義・あるべき姿
リーダーシップは「指導力・統率力」と言われることもありますが、個人やチームを鼓舞し、行動を促すスキルを指します。
一般的に「リーダーシップがある」と評価されるのは、目標を達成するためのビジョンを示し、チームのモチベーションを高めていける人です。
ここでは、リーダーシップの定義を3つ解説します。
- PM理論
- ピータードラッカーの定義
- ジョン・アデアの示すリーダーの姿
関連記事:リーダーシップとマネジメントの違いとは?必要なスキルや習得方法を解説
PM理論
抽象度が高いテーマではありますが、リーダーシップにもさまざまな理論があり、中でも有名なものが「PM理論」と呼ばれるものです。
PM理論とは、チームにおいてリーダーが取るべき行動に着目した行動理論で、1966年に日本の社会心理学者である三隅二不二により提唱されました。
PM理論において、リーダーシップは「目標達成機能(Performance function(P)」と「集団維持機能(Maintenance function:(M)」の2つで構成されていると述べられており、PとMの2つの軸でリーダーシップを説明しています。
P機能は「成績・生産性を向上させるため」の能力で、M機能は「チーム全体の人間関係を良好に保ち、維持する」能力を指しており、PM理論ではP・M共に強い状態が理想的なリーダーと評価しています。
ピーター・ドラッカーの定義
経営学者としても有名なピーター・ドラッカーは、著書において「リーダーシップとは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立することである。リーダーとは目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者である」と述べています。
また、ドラッカーはリーダーシップの本質について「天性のものではなく後天的に身につけるもの」とも述べています。
つまり、リーダーシップは一人一人が身につけるべき能力であり、組織にまつわる統制の仕事を通じて発揮・習得するものと定義しています。
なお、ドラッカーはリーダーシップとマネジメントの違いについても言及しており、「リーダーシップは立場や役職に関係なく全員が発揮するもの」ですが、「マネジメントは役職者が組織を管理する手法」と区別しています。
ジョン・アデアの示すリーダーの姿
ジョン・アデアは、下記のようにリーダーが取るべき具体的な行動を8つ挙げています。
1.仕事を明確に
仕事の目標をSMART(具体的=Specific、測定可能=Measurable、合意がとれている=Agreed-upon、現実的=Realistic、期限付き=Time-bound)に示す。
2.計画
不測の事態に備えた代替案を用意しつつ、建設的・独創的なアイデアが出せるような雰囲気を作る。
3.説明
仕事の目的や計画を事前に説明し、チームに共通認識を持たせる。
4.統制
仕事が効率的に進められるように、適宜メンバーに対して効果的な指示を出す。
5.評価
チームの成績を適正に評価し、モチベーションを高めつつ成功や失敗に対する改善策を練る。
6.動機づけ
メンバーの手本となるようにリーダー自身が高いモチベーションを持ち、メンバー全員の動機付けを行う。
7.組織化
チームが一貫性・一体感を持てるようにメンバーを育成し、組織運営も柔軟に行う。
8.模範化
リーダーは常にメンバーから見られていることを意識し、模範となるように行動する。
なお、アデアの理論はリーダーの能力としての「何か」ではなく「何をするか」といった行動に重きを置いている点が特徴で、生まれながらの資質ではなく、学んで得られるものであると述べられています。
関連記事:リーダーシップとは?種類やスタイル、必要なスキルなどを事例も含めて解説!
リーダーシップのスタイル
リーダーシップと一口に言っても、さまざまな種類があります。
状況やメンバーによって最適なリーダーシップのスタイルは異なるので、各リーダーシップの種類や特徴について確認していきましょう。
専制型リーダーシップ
専制型リーダーシップとは、その名の通り専制的(独裁的)にチーム全体の意思決定を行うものです。
また、方針や意思決定だけでなく、チームの動きを一人のリーダーが決定する方法なので、リーダーにカリスマ性や正しい判断力が求められます。
専制型リーダーシップは、「メンバーは上からの命令を受けることで、生産性が高い働き方ができる」という考えが根底にあり、優れたリーダーであれば効率的にチーム運用ができると考えられています。
組織が結成されたばかりで未熟な時期であったり、緊急性が高くスムーズな意思決定が求められるようなケースでは、専制型のリーダーシップが最適です。
信頼と実績のあるリーダーが主導することでスムーズに運営ができるメリットがありますが、各メンバーの自律性や積極性は育成できないというデメリットがあります。
民主型リーダーシップ
民主型リーダーシップとは、民主的にチーム運営を行うリーダーシップを指します。
民主政治のように、リーダーとメンバーが意見を交換しながら意思決定を行うので、専制的リーダーシップとは異なり、メンバーの意見や提案を受け入れる点が特徴です。
メンバーから意見を聞き出し、意見を集約しながらチームの方針などをまとめていくので、一体感を醸成しやすいと言えるでしょう。
自分の意思よりチーム全体の意向を重視し、メンバー全員が納得感を持ちながら役割をこなすようになるので、モチベーションが維持しやすい特徴もあります。
意見交換などを通じてメンバーの自律性や帰属意識を高められるメリットがありますが、意思決定までに時間がかかるため、切迫したスケジュールを進める際には不向きです。
放任型リーダーシップ
放任型リーダーシップとは、メンバーの行動や仕事ぶりを一切管理せず、メンバーの自主性や仕事能力に委ねるリーダーシップです。
リーダーは業務の割り振りなどを担い、あとは必要に応じて判断を行います。
リーダーはチームの行動に関与せず、メンバーが自由に意思決定しながら仕事に着手するので、意思決定や状況判断ではなく各チームメンバーが行うこととなります。
放任型はチームメンバーの自主性に委ねられるので、仕事の成果はメンバーの積極性やスキル次第と言えるでしょう。
メンバーのスキルレベルが高い場合は有効なリーダーシップとなりますが、メンバーのスキルが不足している場合はチームのまとまりがなくなり、チーム運営が不安定になってしまいます。
また、チーム全体としての協調性が失われてしまうとプロジェクトが進まずに破綻してしまう恐れがあるので、メンバーのスキルや知識などを見極めることが重要です。
関連記事:【キングダム】秦国の将軍 王騎(おうき)が行った自然と部下が集まるリーダーシップとは?
リーダーシップを発揮する人の特徴
リーダーシップを発揮する人は、仕事の能力が優れているだけでなく、行動面や人柄面でも高い評価を受けています。
リーダーシップを発揮する人の特徴について解説していきますので、自身のチームにおいて該当者がいるかどうかをイメージしてみてください。
仲間に信頼されている
やはり、組織やチームを率いる存在は仲間から信頼されています。
ドラッカーも「部下からの信頼を集めることがリーダーシップである」と述べていますが、日頃の仕事ぶりや振る舞いなどから周囲の信頼を得ることは非常に重要です。
「信頼を得る方法」を明確に説明することはできませんが、常に誠実な対応を心掛けたり、周囲と円滑なコミュニケーションを取ることで、コツコツと信頼は積み重なっていきます。
単に「仕事ができる」という事実だけで信頼を得ることはできないので、人柄や周囲への心遣いをはじめとした日常的な言動に着目すると良いでしょう。
また、仲間に信頼されることで仕事のモチベーションが高まったり、「自分は求められている」という自己肯定感を高めることにも繋がるので、好循環を生み出すことも期待できます。
誰よりも行動力がある
机上だけで理想や考えを伝えるリーダーよりも、実際に自らが率先して動いてくれるリーダーの方が信頼を得やすいです。
周囲から信頼され、リーダーシップを発揮しているリーダーの多くは行動力に優れているので、チームに課せられているタスクを率先してこなすことで「優れたリーダー」になれるでしょう。
目標を達成するためにあたって課題や問題に直面することもありますが、解決するためには行動をしないと始まりません。
リーダーが率先して課題を解決するために行動し、メンバーの模範となるように振る舞っていれば、自然とリーダーシップが形成されるでしょう。
自ら行動しつつ、メンバーにも適切な指示を与えることで業務効率やアウトプットの質が高まり、メンバーのスキル向上にも繋がります。
メンバーに対して誠実
メンバーに対して誠実に振る舞うことも、リーダーシップに優れた人物の特徴です。
どれだけリーダーに優れたスキルがあり、業務遂行能力が高かったとしても、メンバーに対して尊大な態度を取ったり不誠実な対応をすると、尊敬を集めることはできません。
具体的には、下記のような言動が目立つリーダーは「リーダーシップを発揮している」とは言いがたいでしょう。
- 常に上から目線
- マウントを取ってくる
- 自分の言動に責任をもたない
- 仕事を途中で投げ出す
一度でも上記のような言動をすると、周囲からの信頼を一気に失ってしまうので注意が必要です。
また、「誠実さ」は仕事場における振る舞いだけでなく、仕事場以外のオフの場における言動からも判断されます。
優れたリーダーになりたいのであれば普段から自分の言動に責任を持つことが重要です。
メンバーを信頼し、誠実に対応することで信頼されるようになるので、常に「誠実な態度」を意識しましょう。
コミュニケーション能力が高い
チームで協力して成果を出すためには、コミュニケーションが欠かせません。
リーダーがメンバーを適材適所に配置して、モチベーションを高めるためには日頃から円滑にコミュニケーションを取っている必要があります。
また、タスクやプロジェクトを進める上では「メンバーを動かす」ことも非常に重要となりますが、メンバーに行動してもらうためにも、コミュニケーションを通じて信頼関係を築く必要があります。
そのため、自分の考えや思いをしっかりと伝え、メンバーの考えや主張を柔軟に受け入れられるような「コミュニケーション能力が高い人」は、リーダーシップを発揮しやすいでしょう。
話し上手である必要は無く、「しっかりと自分の意思や考えを伝える」「相手の意思や考えをくみ取る」ことがコミュニケーションの基本となるので、日頃から意識してみてください。
揺らぎのない判断軸がある
リーダーが優柔不断で右往左往していると、チームのメンバーは不安を感じてしまいます。
プロジェクト進行中に決断が求められる場面は多くありますが、複数の選択肢の中からスムーズに決断することもリーダーの重要な仕事です。
なお、複数の選択肢の中からベストないしはベターな判断をするためには、自分の中で揺らぎのない判断軸を持っている必要があります。
揺らぎのない判断軸を持つためには、確固とした価値観や信念を持つことに加えて、精神的に安定していることも求められます。
批判や反論を受けたとしても、感情的に批判するのではなく、受け入れ、参考にするような精神的な強さと柔軟な思想を持っていれば、常に冷静に判断できるようになります。
判断力を身につけるためには、「判断を下す」という場数を多く踏むことが効果的なので、ぜひ責任のある仕事を通じて判断を下す練習をしてみましょう。
関連記事:リーダーシップとは?必要な資質やスキル、能力を身につける方法を解説
リーダーシップを発揮するためのスキル
リーダーシップを発揮する上で、習得しておくと役立つスキルは多くあります。
下記で紹介するようなスキルを習得することでリーダーシップが磨かれるので、普段の仕事の中で意識していきましょう。
主体性・当事者意識
当事者意識を持ち、主体性を持って仕事に取り組むことで、「自分の仕事の全てに責任を負う」という高い意識が持てるようになります。
リーダーとして仕事を行う以上、責任が発生するのは当然ではありますが、メンバーに任せる仕事であってもリーダー自らが主体性を持つことで、有益な助言やアドバイスができるようになります。
「コストを削減する方法」「効率よく仕事を進める方法」「ミスを減らすための工夫」などは、当事者意識を持って仕事をしていないと閃かないものです。
リーダーが当事者意識を持って仕事をしており、メンバーに仕事を振る際にもリーダー自身が主体性を持っていれば、尊敬と信頼を集めることができます。
その結果、メンバーが一体感を持って仕事に取り組めるようになり、アウトプットの質も向上するでしょう。
課題発見・解決能力
タスクやプロジェクトを進める中では、様々な課題が出てくるものです。
課題を見過ごしてしまうと、その後にプロジェクトの進行に大きな支障をきたす大きなトラブルに直面する恐れがあるので、問題・課題は小さなうちに対処しなければなりません。
そのため、リーダーには課題を発見する能力、そしてそれを解決に導く能力が求められます。
課題を解決する能力を育むためには、実際に課題を解決する場数を踏むことが効果的な方法となりますが、併せて「多面的に物事を見る」ことも重要です。
トラブルが大きくなる前に課題を発見し、適切に解決するスキルを持っているリーダーがいるチームは、パフォーマンスも高まるでしょう。
目標設定力
メンバーは、目標設定や業務計画を立案してもらい「実行する」という役割を果たしていますが、リーダーは逆の立場になります。
つまり、チームにふさわしい目標を設定して、目標を共有した上でメンバーに適切に仕事を任せることがメンバーの重要な役割です。
目標を設定しておかないと、メンバーに具体的な仕事の指示を出すことができず、メンバーが効率よく仕事ができなくなってしまいます。
その結果、チーム全体のパフォーマンスの低下に繋がってしまうので、ちょうど良いレベルの目標を設定して、メンバーの意欲と能力を引き出すことは非常に重要です。
付随して、メンバーの強みやスキルを理解した上で適材適所に配置することも意識すると良いでしょう。
コミュニケーションスキル
チーム全体で仕事を進める上では、コミュニケーションスキルは欠かせません。
コミュニケーションが不十分だと、チームの目標が適切に共有できなかったり、リーダーである自分の意図がメンバーに伝わらなくなってしまいます。
また、リーダーのコミュニケーションスキルが乏しいと、計画やプロジェクトの実行度も低下してしまうでしょう。
その結果、やるべき業務が進まなかったり、逆に優先順位の低い業務を進めてしまうなど、プロジェクトの進行に支障が出てしまうような事態が起こり、失敗に終わってしまう可能性が高まります。
自分の考えや意図をチーム全体で共有し、メンバーに任せる仕事を明確にするためにも、コミュニケーションスキルは必須です。
日頃の生活の中で自分の意図を正確に伝えたり、逆に相手の意図を理解することを意識すると、自然とコミュニケーションスキルは磨かれます。
リーダーシップを発揮するためのトレーニング
リーダーシップは鍛えることができるので、リーダーの立ち位置を任される機会が多い人は、トレーニングを重ねることをおすすめします。
リーダーシップを発揮するためのトレーニング方法について見ていきましょう。
ポジティブ思考を身につける
リーダーがネガティブで後ろ向きの姿勢で仕事に取り組んでいては、メンバーは不安になってしまいます。
魅力がない上に頼りがいがないリーダーにメンバーは付いてこないので、ポジティブ思考を身につけることは有効なトレーニング方法となります。
思考は行動を促すためのエネルギーとなるので、ポジティブ思考の人の方が活動的に仕事に取り組む傾向にあります。
その結果、メンバーにもエネルギーが波及して各メンバーが自分の能力やスキルを発揮できるようになり、チーム全体の仕事のパフォーマンスも高くなるのです。
また、ポジティブ思考を習慣づけると自己肯定感が高まり、価値観の合う仲間が寄ってくるようになるというメリットもあります。
チーム内で積極的にコミュニケーションをとる
先述したように、チームで仕事を進めるためには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
そのため、リーダーとなる自分が自発的にコミュニケーションを取り、メンバーの性格や強みを把握するようにしましょう。
チーム内でコミュニケーションが活発だと、相互に信頼関係が生まれて部下も相談しやすい環境を整備できます。
相談しやすいチームだと、部下としても気軽に相談できる安心感を得られるので、自信を持って生き生きとスキルを発揮できるようになります。
このように、チーム内で積極的にコミュニケーションを取ることで多くのメリットが期待できます。
普段の仕事を通じてコミュニケーションスキルを磨いていきましょう。
常に問題意識を持って仕事に取り組む
漫然と仕事に取り組むよりも、問題意識を持って仕事に取り組む方が成長にも繋がり、さらにリーダーに求められる資質も習得できます。
問題意識を持つことで、「もっと効率的な方法はないか?」「エラーが起きないような工夫はないか?」という点に意識が向くようになり、新たな発見や気づきを得られるでしょう。
つまり、問題解決能力が自然と鍛えられるので、リーダー業務を任される際にもスマートに問題や課題を解決できるようになります。
いきなりリーダーになってさまざまな問題解決に取り組んでいくのは難しいので、日頃から問題意識を持ち、常に改善できるように心掛けることをおすすめします。
外部講師の研修を受ける
現在の職場でリーダーシップについて学び、経験することは可能ですが、外部講師の研修を受けることも有意義です。
外部講師から研修を受けることで、現在の職場だけでは得られないような知識や価値観を得ることができるので、視野を広げられるメリットも期待できます。
また、外部講師はリーダーシップ理論や考え方に精通しているので、実務面でもマインド面でも効果的な助言をしてくれるでしょう。
「リーダーシップ」は無形なので、自分自身が習得しているか自覚できない難しさがある以上、プロの外部講師から指導を受けることも検討してみてください。
リーダーシップを発揮するための理論
リーダーシップに関しては、いくつか理論があります。
リーダーシップを発揮するための代表的な5つの理論を紹介していきます。
PM理論
PM理論とは、1966年に三隅二不二によって提唱されたリーダーシップ理論です。
PM理論では、リーダーシップ行動を「P:(Performance)目標達成機能」と「M:(Maintenance)集団維持機能」の2つの軸で定義しています。
P機能(目標達成機能)は、成果を上げて目標を達成するために発揮されるリーダーシップです。
具体的には、目標や計画を設定したり、メンバーへの指示出しが該当します。
M機能(集団維持機能)は、組織をまとめるために発揮されるリーダーシップを指しています。
仕事に関する指示出しなどとは異なり、人間関係を良好に保ったりモチベーションを高めるためのアクションが該当します。
なお、PM理論ではリーダーを下記のような4つに分類しています。
- PM型(P・Mともに大きい):目標を達成する力と集団を維持・強化する力もある理想的なリーダー
- Pm型(Pが大きく、Mが小さい):目標を達成する力はあるが、集団を維持・強化する力が弱いリーダー
- pM型(Pが小さく、Mが大きい):集団を維持・強化する力はあるものの、目標を達成する力は弱いリーダー
- pm型(P・Mともに小さい):目標を達成する力も集団を維持・強化する力も弱いリーダー
特性理論
特性理論は古典的な理論の一つで、プラトンの「国家論」やマキャベリの「君主論」など、優れたリーダーに共通する行動特性などの研究を通じて提唱された理論です。
ドラッカーの考え方とは異なり、特性理論では「リーダーは生まれながら持つ特質である」という考え方が根底となっていることが特徴です。
特性理論においては、リーダーは「目標の達成に向け、メンバーの能力や行動を引き出す能力を持つ人」とされています。
つまり、目標を達成するだけでなく、メンバーのスキルや能力を十分に引き出す能力を「リーダーシップ」と呼んでいるわけです。
実際の組織においては、知性が高く行動量もあり、メンバーからの信頼を得られている人物は、特性理論におけるリーダーに該当すると言えるでしょう。
関連記事:古代ギリシャの哲学者は「リーダーシップ」をどう考えたのか
行動理論
行動理論とは、特性理論の次に主流となったリーダーシップ理論です。
先述した特性理論では、「リーダーは生まれながら持つ特質である」という考えが基本でしたが、「良いリーダーとは」を定義するための詳細な研究までには及んでいません。
そこで、「良いリーダー」「求められるリーダー」になるために必要な言動に注目して、言動から「良いリーダーになる方法」を研究したものが行動理論です。
行動理論では「リーダーはどのような行動をするのか」をテーマに据えており、マネジリアルグリッド論とPM理論の2つの軸から、リーダーの能力や特徴の区分けを行っています。
PM理論に関しては先述した通りですが、マネジリアルグリッド論では、リーダーシップを「管理者の生産業務に関する関心度」と「人間に関する関心度」の2つの軸で捉えています。
最終的に、下記の5つの型に分類されますが、「チーム管理型」がベストなリーダーとなります。
- 無関心型(生産業務と人間、両方の関心が低い)
- 権威服従型(生産業務だけ関心がある)
- カントリークラブ型(人間だけ関心がある)
- 組織人間型(生産業務と人間の両方に適度な関心がある)
- チーム管理型(生産業務と人間の両方に高い関心がある)
条件適正理論
条件適正理論とは、行動理論の考え方に加えて「リーダーを取り巻く環境」を考慮したリーダーシップ理論です。
先述したように、行動理論では「管理者の生産業務に関する関心度」と「人間に関する関心度」の2つの軸からリーダーシップを評価しています。
しかし、組織を運営している現場では、残念ながら行動理論により「優れたリーダー」と評価できる人物が、常に成果を上げられるわけではないことが判明してしまいました。
そこで、行動理論の内容に加えて、「どのような環境や条件において、優秀なリーダーが生まれるのか」という研究が進められ、条件適正理論が生まれました。
条件適正理論では、「リーダーは部下のことも考慮しなければならない」「仕事の難しさによって業務の進め方が変わる」という点を前提としています。
条件適正理論を深めるためには、
- コンティンジェンシー理論
- パス・ゴール理論
- SL理論
上記の3つの理論を理解する必要がありますが、いずれの場合においても「組織体制や構成員の特徴など、環境に応じて発揮すべきリーダーシップは異なる」と主張しています。
コンセプト理論
コンセプト理論とは、条件適正理論をさらに発展させたものです。
条件適正理論では、「人間関係やタスクの難しさなどの環境に応じて、発揮するリーダーシップは異なる」と主張しています。
コンセプト理論では、条件適正理論を具体的な事例に落とし込んで、よりリアルなシチュエーションを想定したリーダーシップの研究です。
なお、コンセプト理論では下記のような代表的な5つのリーダーシップの型を挙げています。
- カリスマ型リーダーシップ
- 変革型リーダーシップ
- EQ型リーダーシップ
- ファシリテーション型リーダーシップ
- サーバント型リーダーシップ
コンセプト理論では条件適正理論を深掘りして、具体的にどのような状況でどのようなリーダーシップが有効なのかを示しています。
求められているリーダーシップを事例ごとに判断して、適切に振る舞うことで「理想的なリーダー」になれるでしょう。
リーダーシップを発揮したい人にオススメの本
続いて、リーダーシップについて理解を深めたり、スキルを高めるためにおすすめの本を紹介していきます。
『人を動かす』著者:D・カーネギー
『道をひらく』著者:松下 幸之助
『完訳 7つの習慣 人格主義の回復 』著者:スティーブン・R・コヴィー
『誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』著者:森岡毅
『売上を2倍にする 指示なしで動くチームの作り方』著者:吉野創
『明日を生きるための教養が身につく ハーバードのファイナンスの授業――ハーバード・ビジネス・スクール伝説の最終講』著者:ミヒル・A・デサイ
『うまくいっている人の考え方』著者:ジェリー・ミンチントン
『謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる』著者:エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン
『最難関のリーダーシップ ― 変革をやり遂げる意志とスキル 』著者:ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティ・リンスキー
いずれも、リーダーシップについて学べたり、良好な人間関係を築くためのノウハウについて学べる良書です。
また、知識やスキルだけでなく、リーダーとしてのマインド面についても知見を深めることができるので、リーダーシップを発揮したいと考えている人は読んでみるとよいでしょう。
リーダーシップを発揮している有名人
産業能率大学総合研究所は、毎年「新入社員が選ぶ理想の上司」ランキングを発表していますが、2022年春の新入社員を対象に実施した調査結果は下記の通りでした。
<男性>
1位:ヒカキン
2位:イチロー
3位:大谷翔平
4位:ノブ(千鳥)
5位:ムロツヨシ
6位:小栗旬
7位:新庄剛志
8位:山田孝之
9位:伊沢拓司
9位:鈴木亮平
9位:松岡修造
9位:松本人志
<女性>
1位:水卜麻美
2位:天海祐希
3位:長澤まさみ
4位:本田翼
5位:田中みな実
6位:イモトアヤコ
6位:石川佳純
8位:北川景子
8位:渡辺直美
8位:有村架純
8位:指原莉乃
8位:石原さとみ
8位:有働由美子
選ばれた理由としては、「行動力があり、実際に結果を残している」「良い雰囲気作りをしてくれそう」「親身になってくれそう」など、人によって様々です。
いずれにしても、やはり一般的な社会において求められるリーダー像をクリアしている芸能人がランクインしています。
「理想の上司」にリーダーシップや統率力を求めている人は多いことから、このようなランキングを参考にしながら、立ち居振る舞いなどを真似してみることも効果的でしょう。
リーダーシップを発揮するためのFAQ
Q.なぜリーダーシップを発揮する必要があるの?
「チームの目標を達成するため」「チームの結束を強めるため」に、リーダーシップを発揮する必要があります。
リーダーシップを発揮し、メンバーの能力を最大限に活かすことで目標達成が近づきます。
また、リーダーが率先して周囲とコミュニケーションを取り、手本となることでチーム全体に円滑なコミュニケーションが発生します。
年齢や価値観などが異なるメンバーを束ねるためにも、リーダーシップを発揮してメンバーのモチベーションを高めることは重要です。
Q.自分がリーダーシップを発揮できる自信がありません
リーダーシップと一口に言っても、下記のように様々な型があるので自分に合ったものを選びましょう。
- ビジョン型(目標をチーム全体で共有し、モチベーションを向上させる)
- コーチ型(メンバーの特徴を見極めた上で、適材適所に配置して適切なコーチングを行う)
- 親和型(メンバーとの感情的なつながりを作り、友好関係を築きながらプロジェクトを進める)
- ペースセッター型(パフォーマンスを重視して高い目標クリアを目指す方法)
- 変革型(チームの目標設定とモチベーションの高い環境を作り、プロジェクトを進める)
自身の性格や価値観などによって、最も合う型を模索してみてください。
また、現場経験を積めば自然とリーダーシップが磨かれるので、身構えすぎずに経験を通して自然に身に着けていけばよいでしょう。
Q.リーダーシップを高める方法は?
リーダーには決断力やメンバーの力量を見極める力、コミュニケーション能力が求められます。
そのため、日常的に意思決定を繰り返し決断力を磨き、周囲と意識的にコミュニケーションを取ることが効果的なトレーニング方法です。
また、リーダー自らが心を開き、率先してメンバーのことを信頼することも重要です。