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『君たちはどう生きるのか』に学ぶリーダーシップの大切さ

昭和を代表する知識人であり、ジャーナリストでもあった吉野源三郎の名著『君たちはどう生きるか』。2017年には羽賀翔一さんによって漫画化され、再び注目を浴びました。本書では1人の人間が生きる上で考えるべき問題を提示していますが、ここでは漫画版の「勇ましき友」というエピソードをもとに、組織でリーダーシップ、特にリーダーが決断することの大切さの重要性について解説します。

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自分の意思で行動を起こせるか?

「勇ましき友」は、主人公コペルくんのクラスメイトである浦川くんにスポットを当てたエピソードです。家が貧しく、弁当のおかずに毎日油揚げを入れている浦川くんは、クラスのいじめっ子・山口くんのグループから標的にされています。周囲もそれに気づいているものの、山口くんのグループが怖くて見て見ぬふりを続けていました。コペルくんもそのことに気づいていましたが、クラスの同調圧力に負けていじめを解決しようと行動することができませんでした。

しかしある時コペルくんの友達で正義感の強いガッチンが、クラス全員の前で山口くんへの怒りを爆発させます。ガッチンの怒りによって解消されたかに見えましたが、ガッチンが山口くんと取っ組み合いになった途端、クラスには「ガッチンに加勢しよう!」という同調圧力が生まれてしまいます。その同調圧力を打ち破ったのは浦川くんでした。

やめてっ!!
もう……いいんだよ、もう……。
たのむから、許してやっておくれ……。

引用:『漫画 君たちはどう生きるか』p83〜84(句読点は筆者によるもの)

そう言って浦川くんはガッチンにしがみつき、ガッチンが山口くんを殴るのを止めたのです。コペルくんはこの出来事で感じたことを、相談相手の「おじさん」に次のように語っています。

ほんとは浦川くんだって、まわりの勢いにのっかって山口にやり返したい気持ちもあったと思う。
……でも、あの中で……きっと想像してたんだ。
一方的にやられるのが、どれだけイヤか……。
まわりの流れに勇気をふりしぼって逆らった浦川くんは、ほんとに立派だと思うんだ……。

引用:『漫画 君たちはどう生きるか』p89〜90(同上)

世の中のたいていの人はコペルくんのクラスメイトのように、自分の意思で動けずに、同調圧力に屈してしまいがちです。しかし浦川くんは違いました。「けんかを止めに入る」ことに伴う恐怖心に打ち克ち、自分の意思で行動を起こしたのです。組織において必要になるのは、この浦川くんのようなメンバーでありリーダーですが、なかなか彼のように行動できないのも事実です。

 

人間はもともと「同調圧力に屈する生き物」

学校であろうと会社であろうと、人間が同調圧力に屈してしまうのは、人間がもともと「同調圧力に屈する生き物」だからです。これを証明しているのがアメリカの心理学者ソロモン・エリオット・アッシュが1951年に実施した心理学実験です。

この実験を簡単に説明すると次の通りです。まず1人の被験者と数人の「サクラ」を一つの場所に集めます。次に1本の線を全員に見せ、さらにA〜Cの3本の線を見せます。そこで「この3本のうち、最初に見せた線と同じ長さの線はどれか?」と質問します。実験者はまずサクラに答えを聞いていきます。サクラは全員Aだと分かっていますが、サクラは全員Bを選びます。すると最後に質問された被験者の多くが、同調圧力に屈してBだと誤答したのです。

この実験の結果から、人間が同調圧力に屈することはごく自然なことと言えます。実際、周囲に合わせることは、組織を維持する上で大切なことです。何かを決めようというときに、全員がバラバラの意見を主張しているようでは話がまとまりません。

 

「同調圧力」が組織にもたらす悪影響

しかし会社のような営利組織においては、集団の維持そのものを目的にすると、組織が機能不全を起こす可能性があります。以下では同調圧力が組織にもたらす悪影響について、事例を挙げながら解説します。

 

 「批判的意見の抑制」と「情報のフィルタリング」

同調圧力のもたらす悪影響として、最初に起きるのは「批判的な意見の抑制」です。「過半数がOKを出しているのに、自分がNGを出すわけにはいかない」「おかしいと思っているのは自分だけかもしれない」などと考えると、「批判的な意見を出してバカにされたらどうしよう」「上司から怒られたらどうしよう」という恐怖心が出てきます。恐怖心を克服して批判的意見を出すのと、気持ちを抑えて同調するのとでは、同調する方が圧倒的に楽です。結果、同調圧力の強い組織では批判的意見が抑制されるのです。

批判的な意見が抑制されてしまうと、次に起こるのは「情報のフィルタリング」です。例えばリーダーが「プロジェクトは順調だ!」と言葉にした場合、同調圧力の強い組織では「プロジェクトは順調だということにしなければ」という圧力が生まれます。すると製造ラインでトラブルがあってもリーダーに報告せずに自分たちでもみ消し、マーケティング調査で顧客からのネガティブな意見があってもリーダーにはポジティブな意見だけを伝えたりと、情報を意図的に操作するようになります。結果、リーダーは実際の状況を把握できず、プロジェクトも失敗に終わるのです。

 

 日本の歴史・経済に見る「同調圧力」の悪影響

日本の歴史や経済を見ても同調圧力は多くの失敗を生んでいます。1944年3月から7月初旬までに展開された日本陸軍の「インパール作戦」では、計画段階で武器・食料の補給が不可能と指摘されたにもかかわらず、「もう決定した作戦だし、やるしかないだろう」という同調圧力で現実的な指摘は無視され、作戦は決行されています。結果はもちろん大失敗でした。 [1]

高度経済成長期は、公害対策で同調圧力が国に悪影響を及ぼしました。1967年8月に公布・施行された公害対策基本法には当初「生活環境の保全と経済の健全な発展との調和」がうたわれていました。しかしこれをマスコミが「国民の生活と経済の調和を考慮するとはどういう了見だ!」と批判。結果「公害防止のためなら、経済との調和は無視してよい」という空気が出来上がります。結果日本政府は、科学的な検証をしないままに、イタイイタイ病の原因物質とされるカドミウム除染に8,000億円を投入し、本来健康被害のないダイオキシン除去のために数兆円を投入するなど、国費を無駄遣いしてしまいました。 [2]

 

「自分の意思」を主張できる組織づくりの方法

こうした事態を防ぐためには、リーダーと組織が同調圧力から脱け出し、正しい判断のために必要な情報を集め、建設的な批判を受け入れればなりません。つまり、リーダーシップを発揮し、リーダーとして判断していくことが大事なのです。そのヒントとなる2つの方法を解説します。

 

 「自分の意見を主張していい空気」を作る

2015年にNHK Eテレで放送された『大心理学実験』シリーズでは、前述のアッシュの実験を再現しました。その際、サクラが全員同じ答えを選ぶ実験とは別に、1人だけ別の答えを選ぶサクラを紛れさせた実験もありました。 [3] すると多数派とは違う答えを選ぶ被験者が増えたのです。「自分の意見を主張していい空気」ができれば、人間は自分の意見を言いやすくなるのです。

同調圧力が組織の批判的な意見を抑制するのは、メンバーが「自分の意見を言うような空気ではない」と感じてしまうからです。その空気を「自分の意見を主張していい空気」に変えてしまえば、批判的な意見を出しやすくなります。

ここで重要になるのは、会議などの場面でリーダーがはっきりとした「答え」を言わないことです。発言力と決裁権を持つリーダーが「私はこう思う」と言ってしまうと、「リーダーがそう言うなら」という同調圧力を生むからです。

そのためリーダーには発言を必要最低限に抑え、「○○さんはどう考える?」などとメンバーの意見を根気強く聞き出す努力が求められます。そうして「自分の意見を主張していい空気」を作り出せれば、組織は同調圧力から解放されるでしょう。これがうまくリーダーシップを発揮することにつながるのです。

 

 KYになるための「逆張り思考」がマネジメントにつながる

しかし、自分の意見を言えない空気の中でいきなりリーダーから「○○さんはどう考える?」と聞かれても、自分の考えを表明できないメンバーもいるでしょう。それだけでは「バカにされたらどうしよう」「怒られたらどうしよう」という不安はなくならないからです。

まずリーダーがするべきは、自らが空気を読めない人間になり、同調圧力から脱け出してみせることです。リーダーが空気に同調しない姿を見せれば、他のメンバーも同調しない勇気を持てるでしょう。

とはいえリーダーでも同調圧力から脱け出すのは簡単ではありません。自分以外のメンバーが「この方向で問題ない」と言っていれば、多少の疑問はあっても「問題ないと思う」と言いたくなるのが人間です。ましてやメンバーの中に自分より優秀だと思っている人物がいれば、リーダーといえども「反対意見を言って、バカにされたらどうしよう」という不安に苛まれるものです。

こうした状況のときに効果を発揮するのが「逆張り思考」です。逆張り思考とはその名の通り、目の前にある意見やアイデアの逆を考えることです。

例えば自分が率いるチームが「プロジェクトは順調だ」と考えているようなら、自分は「本当にそうか?もしかすると問題を抱えているのではないか?」と考えるのです。逆に「このプロジェクトはもうダメだ」とチームが考えているなら、「まだ打開策があるのではないか?」と考えます。

そうして同調せず、空気を読まない思考を習慣にすれば、いざチームが同調圧力に飲み込まれそうになったときも、リーダーが率先して脱け出すことができます。

 

「リーダーの決断」こそがチームを動かせる これこそがマネジメント

決心することが社長なり、大将なりの仕事である。戦争するかしないか、これは大将の決めることである。それを決められない者は社長の資格がない。どうしよう、君の意見はどうだ、などといっておったらダメだ。

引用:『仕事の夢 暮しの夢』

パナソニックを一代で築いた松下幸之助は、著書『仕事の夢 暮しの夢』でこのように記しています。

チームの規模に関係なく、リーダーの仕事は決断することです。そしてその決断は、常に自分の意思で下されなければなりません。もちろん建設的な批判や有益な情報は聞き入れるべきですが、それを鵜呑みにしてはリーダーとして正しい決断を下すことはできません。なぜならリーダーはチームの全責任を負い、自分以外の意思で決断をして失敗しても自分以外の責任にはできないからです。

だからこそ、組織からも自分の中からも同調圧力を排除する必要があります。さもなければ批判的意見は抑制され、リーダーは自分の意思で決断できなくなります。

なあ、コペル君。
自分じゃまだ気がついてないかもしれないけど、君はある大きなものを生み出している。
(中略)
それはなんだと思う?

引用:『漫画 君たちはどう生きるか』p160〜161(句読点は筆者によるもの)

『漫画 君たちはどう生きるか』の「おじさん」は、あるときコペルくんにこんな問いかけをします。しかしそのとき浦川くんがやってきて、コペルくんは答えることなく終わってしまいます。作中には最後までその答えは出てきません。しかし本作を読んでいると、その答えは「他人の『動きたい』という意思」だと考えることができます。

なぜならコペルくんが子どもながらに必死に考え、「どう生きるか」について悩み、行動している姿を見て、「おじさん」は自分の仕事に向き合うモチベーションをもらっているからです。この「他人の『動きたい』という意思」は、本来組織のリーダーが決断して生み出すものです。

建設的な批判や正確な情報を受け入れ、自分の意思で自分が正しいと思う判断を下す。それによってメンバーが動き、組織が動いていく。これがリーダーのあるべき姿なのです。これが出来るようになれば、本当の意味でリーダーシップが発揮でき、マネジメント能力のある上司として部下の信頼を勝ち取ることができるでしょう。

 

「君たちはどう生きるか」

同調圧力に屈したり、メンバーの意見を鵜呑みにしたりする方が、圧倒的に楽ではあります。そうしたリーダーの方がメンバーから嫌われる可能性も低いでしょう。しかしここまで見てきたように、それはリーダーとしてのあるべき姿ではありません。とはいえ「どちらが絶対に善であり、どちらが絶対に悪である」と言えないのも事実です。

同調圧力に屈するか、あるいは自分の意思で決断を下すか。リーダーとしてどう生きるかを決めるのも、また自分次第なのです。

 

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参照

[1]失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)  戸部 良一
[2]失敗の本質 日本人はなぜ同じ間違いを繰り返すのか(KADOKAWA)  池田 信夫
[3]http://www.socialpsychology.jp/jssppr/topics/bigpsyexp_nhk/

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