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行動経済学とヒューリスティックについて5分で解説!

1年ほど前に、「わずか15年で3件ものノーベル賞を出した「行動経済学」の知見が、仕事の役に立ちすぎる件。」という記事を書いた。

上の記事では、すぐ仕事に役に立つ知見を書きたかったため、
”仕事の現場で役に立つ知識をいくつか、紹介しておこう。”
と書いているが、元ネタの行動経済学の始祖たちが何を言っているのかについてはあまり述べてない。

そこで今回は、「そもそも、行動経済学とは何なのか」について、簡単に書いてみたい。

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始祖ダニエル・カーネマン

 

まず、ダニエル・カーネマンという人物について。

彼は15才のとき受けた職業適性テストで「心理学者向きだ」と判定されたというエピソードが残っている*1。

さらに彼の父が「ユダヤ人に対する迫害で死んだ」という事実が重なり、カーネマンはイスラエルで最初の学位を心理学という分野で授かった。

ヨーロッパでユダヤ人殲滅をもくろむ政党が権力の座に就いたとき、事態の深刻さを受け止めて逃亡したユダヤ人と、とどまって虐殺されたユダヤ人がいたのはなぜなのか。こうした疑問が、ダニエルを心理学の道へと進ませた。

その後、彼はイスラエル軍で「心理学部隊」に配属され、「どの部門にどの候補者(兵士)が合うか判断してほしい」という任務に就く。

そこで若干21才のダニエル・カーネマンが出した成果は驚異的だった。

軍事指導者としての性質は測定可能な知性ではなく、カーネマンの抽出した特性をテストすることによる「カーネマン・スコア」が素晴らしく良い相関があったのだった。

また、それまでイスラエル軍は「どんな性格がどんな軍務に適しているのか」という問いを持っていた。

しかし、カーネマンはそれには意味がないとし、担当者の直感を排除して、「過去に、どんな行動をとったのか」だけに着目し、正確な評価を下す仕組みを作り上げた。

カーネマンにとって、心理学とは「現実の問題を解決するためのツール」だった。

 

もう一人の天才、エイモス・トバルスキー

 

そしてもう一人の始祖と呼ばれるのが、エイモス・トバルスキーだ。

非常に魅力的で、社交的だが、変わり者で知られたトバルスキーは、非常に明晰で、かつ合理的であった。

妻と映画を見に行った時ですら、映画がつまらないと見るや、20分で「自分一人で」帰ってきたというエピソードが残されている。

トバルスキーは大学で心理学と哲学を学んだが、心理学の道に進んだトバルスキーは、幼児心理学、臨床心理学、社会心理学など、従来の心理学にほとんど興味を持たず、唯一ウォード・エドワーズの論文「意思決定に関する経済的な理論」に興味を持った。

心理学の道を選択した理由を、彼は「哲学で僕らができることは何もない。プラトンが多くの問題を解決しすぎた」と述べている。

その後、彼は国を出て、ウォード・エドワーズのいる、世界最大の心理学部を要する、アメリカのミシガン大学にわたり、研究活動を始めた。[1]

 

行動経済学は、心理学を否定することから生まれた

 

これ以上に上の2人の人生に興味がある方は、文献を参照していただくことがよいと思うが、ここで言いたいのは、行動経済学の特徴は、上で述べたように2名の始祖のいずれもが「心理学」を礎としていることにある。

そして、その頃の心理学を含む、社会科学でもっとも信じられていた理論は、
「人間は合理的である」ということだった。

その頃、社会科学でいちばん信じられていた理論は、人間は合理的であるということだった。

それはつまり、少なくともまともな直感的統計学者だということだ。新しい情報の意味を読み解き、確率の判断をうまくできる。もちろん間違えることはあるが、その間違いは感情の産物であり、感情は予想がつかないので、無視しても差し支えない、と。

徹底して疑うことを常とし、自分ですら信じることができなかったカーネマンにとって、「人間は合理的ではなく、よく間違う」ことは数々の経験から自明であった。

ミシガン大学でそのカーネマンに出会ったトバルスキーは、カーネマンに影響され、次第に「不確定な出来事が起こる可能性を、人はどう判断しているのか」に興味を持つようになった。

そして、イスラエルに戻った二人は、そこで従来の心理学を否定する、共同論文を書き上げる。

そのテーマは
「とても小さな部分が、全体を表しているとつい思ってしまうという人間の錯誤」
についてだった。

つまり、統計学者でさえも、わずかな証拠から一気に結論へと飛びついてしまうという人間の性向の話だ。
カーネマンは、のちの著書、「ファスト&スロー」で次のように書いている。

その結論が正しい可能性が高く、万一まちがいだった場合のコストが容認できる程度であって、かつ時間と労力の節約になるのであれば、結論に飛びつくのは効率的と言える。だが慣れていない状況であるとか、失敗のコストが高くつくとか、追加情報を集める時間がない場合などは、結論に飛びつくのは危険である。[2]

社会科学の実験は、たいてい少数の標本を抽出し、何かしらの理論を検証している。
この論文は、実験によって、そうした「少数の法則」に依拠する理論すべてに大して、猜疑を投げかけたのだった。

彼らは次のように書いている。

心理学者は少数の標本を信頼しきっているため、どちらの集団であれ、そこから引き出された結果はほぼ正しいと考える。その二つが互いに矛盾しているとしてもである。実験心理学者が「結果が矛盾しているのは、標本にばらつきがあるからだと考えることはめったにない。それはどんな欠陥についても、原因となる〝説明〟を見つけるからだ」とダニエルとエイモスは書いている。「そのため標本のばらつきが影響していることに気づくことはほとんどない。ゆえに少数の法則への思い込みは、永遠に変わることはない」[1]

彼らはこの性向を「人間の持つ、根本的な錯誤」だと結論付けた。

人間の頭脳は統計をうまく扱うことができない。
では、人間は何によって「判断」を下しているのだろうか?

 

ヒューリスティックとアンカリング

 

人間の頭脳は確率の計算をしないし、統計を扱えない。
では何を頼りに、判断を下すのか。

それはもちろん、「経験則」だ。
人間は、確率の法則の代わりに、経験則を使っている。
カーネマンとトバルスキーは、それを「ヒューリスティック」と「アンカリング」と呼んだ。

彼らが発見したヒューリスティックの一つが「代表制ヒューリスティック」だ。
これは、「頭の中のイメージ」と「似ている」ものを探し、それをもとに判断を下す性向のことである。

人は判断を下すとき、頭の中にある何らかのモデル(イメージ)と比較していると、彼らは述べている。

あの雲は(自分の頭の中にある)嵐の雲とどのくらい似ているだろうか。

この潰瘍は(自分の頭の中にある)悪性がんとどのくらい似ているだろうか。

ジェレミー・リンは(自分の頭の中にある)将来のNBAプレーヤー像とどのくらい一致しているだろうか。

あの好戦的なドイツの政治主導者は(自分の思い描く)大量虐殺をやりかねない男の像と似ているだろうか。

人間は母集団について特定のイメージを持っている。

例えば、「相撲取りのイメージ」を持っている日本人は多いだろう。

そのイメージと近い人を見たら、「この人は相撲取りだろう」と判断しやすくなる。

これが代表性ヒューリスティックだ。

そして、もう一つの発見が「利用可能性のヒューリスティック」だ。
これは、簡単に思い浮かべられる(利用可能)なものほど、頻繁に起きると考えてしまうという錯誤である。

たとえばハイウェーでひどい事故の現場を通り過ぎたあとは、車のスピードを落とす。それは、事故を起こす可能性についての予測が変わるからだ。また、核戦争の恐ろしさを訴える映画を観たあとは、核戦争について前より心配になってしまう。

もちろん、これが人間の根本的な性向として現代に引き継がれている理由は、それが生存に有利だったからだ。

しかし、複雑な状況下で、正確な判断に必要な材料が手元にない場合には、人間の判断には間違いが生じる。
「強く記憶に刻まれたこと」によって、判断が歪んでしまうのである。

そしてもう一つ、人間の判断をゆがめるものとして「アンカリング(係留)」を彼らは挙げた。
アンカリングとは、解決すべき問題とはまったく関係ない情報にしばりつけられてしまうことだ。

例えば、カーネマンと、トバルスキーはゼロから百までの数字が書かれたルーレットを回すよう頼んだ。

その後、アフリカの国々で国連に加盟しているのは何%か尋ねた。すると、ルーレットで大きい数字が出た人のほうが、小さい数字が出た人よりも、その割合を高く見積もった。

このように、2種類のヒューリスティック、およびアンカリングによって、人間は系統的な判断ミスを犯すことを、彼らは実験によって示したのである。

 

行動経済学の価値とは

 

間違いに関する古来からの格言は「人間は必ず間違う」こと事態は、昔から認識されてきたことを意味している。

だが、「どのように間違うのか」については、カーネマンとトバルスキーが指摘するまで、誰もそれを取り上げてこなかった。

それゆえ、彼らの偉大な功績は、「人間の間違い」を系統的に、理論として再現性のある形で示したことにある。

例えば、前回の記事で示した、以下の行動経済学の知見は、すべて
カーネマンとトバルスキーがヒューリスティックとアンカリングによって、「人間が系統的に間違いを犯す」ことを理論的に示したことで、生まれたものだ。

・上司への悪い報告は、良い報告とセットで。かつ悪い話は先にせよ。
・人材育成は「褒めても叱っても同じ」
・昇給はできるだけ小刻みに。できる社員にはカネでなく「地位」を。
・成功企業を検証して法則を導こうとする行為は無意味
・「わかりやすい」だけで、「知的だ」「信頼できる」と認識される

もちろん、こうした知見はビジネスだけに適用されるものではない。
あらゆる「意思決定」に及ぶ。

医学、法学、政治学、そして経済学。

とくに「経済学」における理論のほとんどは、「人は効用を最大にするように行動する(期待効用理論)」を前提として扱っていただけに、根底からそれを覆す行動経済学の知見によって、再構築を迫られている。[3]

かくしてダニエル・カーネマンは、その功績によりノーベル経済学賞を受賞することになったのである。
(残念ながら、エイモス・トバルスキーはノーベル賞の受賞前に亡くなっている)

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[1] かくて行動経済学は生まれけり(文春e-books) マイケル・ルイス
[2] ファスト&スロー(早川書房) ダニエル・カーネマン
[3] 行動経済学の逆襲(早川書房) リチャード・セイラー

 

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