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ノブレス・オブリージュとリーダーシップ 経営者は組織の何にコミットすべきなのか

陸上自衛隊で将官の階級に在った人に、インタビューをさせて頂いた時のことだ。
その時のお題は「リーダーシップと組織論」であり、正直ありきたりな企画で、事前に設定していた質問も余りおもしろくない。
当然頂ける回答もそれほど目新しい発見を頂けるものではなく、どうしたものかと考えあぐねていた。

そこで少し変化球をつけてみようと、こんな質問を投げかけてみた。
「ノブレス・オブリージュという考え方について、どのような実践をしてこられたかお聞かせ頂けませんか?」

少し補足すると、ノブレス・オブリージュとは欧州の騎士道に由来する、高貴なる者の義務、という表現で訳されることが多い考え方だ。
もう少し柔らかく表現すると、
「社会的成功を収めたもの、あるいは社会的責任を伴う地位にある者の義務」
と言ったところだろうか。

本記事では、ノブレス・オブリージュとリーダーシップについて解説していきます。

 

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リーダーに求められる覚悟とは?

伊藤忠商事の丹羽宇一郎・元社長は、

リーダーには「社会のためならわが身を投げ出すこともいとわない」覚悟が求められる[1]

と、リーダーに求められる覚悟としてこの言葉を用いている。

すると元高官は少し笑みを浮かべながら、
「私がそれを語れるような人物であるとは思いませんが・・・」
と前置きし、話し始めた。

「私の部隊に、幹部になりたての若い隊員が来ると、必ず伝えていたことがあります。それは、『幹部自衛官になったからには、これからは人を批判する立場から、批判される立場になったという覚悟を持ちなさい。』ということです。」

そして、幹部の決断には必ず厳しい批判が伴うものであること。
不満もあるかもしれないが、それがリーダーの仕事であると受け入れること。
その重圧に耐えられないものは、リーダーたり得ないこと。


それが、組織を率いるものに求められる覚悟であり、ノブレス・オブリージュという考え方の一つの実践ではないでしょうか、と答えてくれた。

しかしこのような訓示を受けた若い新任幹部は、ほぼ100%、
「この人はいったい、何を言ってるんだ?」
という顔をするそうだ。
無理もない話で、新任の幹部自衛官は一般に20代の若者が多く、いきなりそんなことを言われてもわかるものではない。
しかし、それでいいんですと、元高官は笑顔で語ってくれた。


やぶ蛇ではあると思うが、私はそんな元高官のお話を聞きながら、実はいたたまれない思いになっていた。
というのも私自身が、そんな覚悟を全く持ち合わせないままに、非常に責任の重いリーダーのポジションを務めていたことがあるからだ。

 

過去にコミットできないリーダーに価値はない

 

私は縁あって29歳の頃に、大阪の中堅メーカーで経営企画担当の取締役に就いた。
従業員850名ほどの会社で、本来であればヨソから来た若造がぽっと役員に就くような会社ではない。
しかし実はその時、同社は非常に経営が厳しく、このままでは経営破綻が避けられない危機的な状態にあった。
そして同社のメインバンクで、投資部門の責任者を務める知人から、
「ダメで元々の覚悟で、経営の立て直しに取り組んで見る?」
と誘われたのが、役員に就いた経緯だ。
怖いもの知らずとは恐ろしいもので、正直、そのポジションに就くことに大したプレッシャーは無かった。
なんとなく「自分ならできそう」と全く根拠なく考え、むしろキャリアアップのためのよいキッカケであるとすら、能天気に考えていた。

しかしながら、実務に就いた毎日は過酷そのものだった。
IPOに失敗し業績が低迷していた同社では、すでに使い切ってしまったとはいえ資本金・資本準備金を併せて10億円を超える外部資本をお預かりしていた。
そしてそれ以上に銀行借入れの状況が深刻で、債務超過寸前の状況では追加融資どころか、交渉を誤ればいつ口座が凍結され、担保を差し押さえられるかも知れないという状況である。

この状況で、経営立て直しのための経営計画を立て、その進捗を管理し、そして銀行や株主、お取引先といったステークホルダーに対し少なくとも月1回、報告に行き理解を求めるのである。
それを怠れば、直ちにあらゆる取引を止められることはもちろん、そもそも進捗状況によっても直ちに手を引かれるだろう。
私が就いたのは、そんなポジションでありタイミングだった。

そして、このポジションにあった時のストレスといえば、経営責任という名のサンドバック役であったということだ。
全ステークホルダーの担当者は、当然のことながら殺気立っている。
銀行の担当者は、いつ不良債権化するともわからない債権の状況にやきもきしている。
VCをはじめとした株主は、投資した資金が回収できないかも知れない瀬戸際なので、もはや恫喝に近い言葉で攻め立ててくる。

「できなかった理由の説明はもういいですよ。で、どうやるんですか?」
「売上計画がまったく達成できる見込みがないようですが。どういう根拠でこんな数字を出してきたのですか?」
などというのは序の口で、中には、
「最初から計画倒産する気だったんじゃないんですか?」
と、生産的な会話が不可能になっているステークホルダーもいた。

そんな追求をされている中、ふと、高校時代に初めてラーメン屋さんでバイトをした時のことが思い浮かんでいた。
ホール係だった私は、お客さんにラーメンをお持ちするなり、
「おい兄ちゃん!なんやこれ、全然美味しくないやないか!!」
と恫喝されたことがある。
答えようがないお客さんからのクレームに少しムッとした私は、
「そうですか?私が作ったんじゃないので知りません。」
と、開き直ってみせた。
するとお客さんは笑いながら、
「そらそうや、兄ちゃんただのバイトやもんな(笑)」
と、それ以上は何も言わなかった。

同じように、言ってしまいたい。
「私はこの会社の取締役になったばかりなので知りません。」
「10億円を溶かした経営判断に、私は参加していませんがなにか?」
と。

しかし、それではもちろんラーメン屋のバイトと同じである。
現在の経営計画は、私が各事業部門の状況を精査し立案したものである。
それは、過去に対する責任を引き受け、未来を良くするための責任をも引き受けたということに他ならない。
「過去のことなんか知りません。未来にだけコミットします。」
というのなら、自分で会社を起こせばよいのである。
まして、コミットした未来に対しても見通しが外れたのだから、その責任はすべて私にあるのは当然のことだ。
ボコボコに殴られ続けていると、思考停止をしたのか脳がバグったのか、次第にそんな心境に変わっていった。

そして満身創痍の状況で現場に戻ると、とにかくどうすれば状況を改善できるのか。
時には自分も工場のライン作業に立ち、定性的・定量的な側面の両方から一つ一つ、問題を解決し続けた。

結論から言うと、この時のターンアラウンド(事業再生)に私はある程度成功した。
事業の改善が得られたタイミングで会社を売却し、株主を始めとしたステークホルダーにセカンドベストなイグジット(出口)を用意できたからだ。

しかしここで私には、新たな消化しきれない想いがまた一つ湧き起こってきた。
「ステークホルダーのためにイグジットを用意したけど、俺はこれで用済みだよな・・・」
という虚しさだ。

会社の業績を立て直し、事業を売却したら、もはや新たなオーナーの下に私の居場所はない。
いわば私は、自分を追い出すために会社を良くしていたようなものだ。
当然、株主でもないので会社を良くすることから得られる恩恵はなく、世間的なビジネスパーソンとさほど変わらない給料を受け取っただけで、一体何をしていたんだろうと。

どこか腑に落ちない虚しさを感じながら、お世話になった株主を始めとした皆さんに、最後のご挨拶まわりを始めた。

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真のリーダーは組織の未来にコミットする

 

冒頭の、自衛隊元高官のお話についてだ。
若者たちに通じても通じなくても、いずれわかる時が来る。
その時に、「あの人の言っていたことは、こういうことだったのか。」と、ふと気がつく瞬間があるんだと。
元高官はそう話し、リーダーとは部下や組織の未来にコミットしなければならない存在であると強調した。
そのようなリーダーは、上司からも部下からも、結果として必ず尊敬されると。
短期的には「厳しいことばかりいう嫌な人」と思われるかも知れないが、そんなところにリーダーの見返りは求めるべきではないし、リーダーのやりがいもないという趣旨のお話で、締めくくってくれた。

そして私が、最後の挨拶周りに行った時のことだ。
ステークホルダーの担当者は、ねぎらいの言葉をかけてくれる人、厳しい態度で恨み節を言う人など様々であり、それだけ大きな案件に携わっていたことを改めて思い知った。

そんな中、ある大手食品メーカーに挨拶に行った時のこと。
席につくなり、会長が口を開き
「次に行く場所がないなら、次もまたターンアラウンドマネージャーをやってみるか?やって欲しい会社がある。」
「君のこの数年間の仕事ぶりは、細かくみていた。結果として損が出たのは残念だけど、君の仕事に私は満足している。」
と話し始めた。
そして、どのような経営判断、交渉、立ち居振る舞いについて具体的に何を評価しているのか。
ここ数年の私の仕事について、話した。
その最後に、出資先企業の立て直しに私を送り込みたいと、正式にオファーをしてくれた。

にわかに信じがたい話に、いろいろな感情が湧き上がった。
評価をして頂いた内容は、ざっと以下のようなものだっただろうか。

組織の未来にコミットし、有言実行で誠実に取り組んでいたこと。
行き場を失う結果がわかっていても、ステークホルダーと従業員の利益を最優先したこと。
全ての結果を自責で捉えていたこと。

そんな内容であったように思うが、結果としてそう見えていたのかも知れない。
本当は、「なんで俺が」と何度も言いたかった、という本音は、さすがに言えなかったが。

月並みなようだが、リーダーとしてあるべき姿を外さなければ、その姿を誰かが見ていることをこの時ほど痛感したことはなかった。
もちろん、そんな見返りは期待すべきではないし、リーダーとしての本当の喜びでは無いのかも知れないのだが。

しかしながら、リーダーとして
「なんで自分がこんな責任を引き受けなきゃいけないんだ・・・」
と愚痴を言いたくなった時。
ふと、自問自答してみてはどうだろうか。
「今の自分は、組織の過去に責任を持ち、未来にコミットできる器だろうか」と。
それが、本当のリーダーのあるべき姿であるはずなのだから。

 

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[1]広報会議「勇気ある広報の存在が、日本企業を「知の衰退」から救う」
https://mag.sendenkaigi.com/kouhou/201707/management-and-pr/010865.php

 

 

 

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