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高度外国人材の採用とは?これからのマネジメントが考えるべきこと

生産年齢人口が減少の一途をたどる中、外国人材の存在感が増しています。

現在は外国人材を単に労働力の補充という側面からだけ捉えるのではなく、企業を成長させ、日本の産業を発展させる人材として確保しようというフェーズにあるといっていいでしょう。
第4次産業革命の推進、イノベーションの創出、海外展開など、企業の課題が山積する中、高度な専門知識や技能をもつ「高度人材」をめぐり、国際的な獲得競争が繰り広げられています。

それと同時に、外国人材の雇用のあり方、彼らへの処遇が、外国人材の確保や就労定着を左右し、企業評価にもつながる時代でもあります。

こうした状況下、高度外国人材の採用にあたってマネジメントが考えるべきことを明らかにしていきたいと思います。

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 外国人材採用のメリット

 

はじめに外国人材採用のメリットを明確にしておきましょう。

まず、労働力の状況を概観します。

図1 人口の年次推移
出典:[1] 厚生労働省(2017)「日本の将来推計人口(平成29年推計)の概要」 p.2
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000173087.pdf

上の図1は人口の年次推移を表しています。
この図からわかるように、今後、15歳から64歳までのいわゆる生産年齢人口は減少の一途をたどると推測されています。
2015年に7,728万人(全人口の60.8%)だった生産年齢人口は、2065年には4,529万人(同51.4%)にまで減少することが推計されていますが [1]、2030年時点でも6,875万人と、2015年比で853万人の減少が見込まれています。

今後、女性や高齢者の雇用を推進し、AIやIoTなどを積極的に活用していくとしても、これほど人的資源が不足してはカバーし切れるものではありません。
このままでは生産性が著しく低下して、企業は経営が成り立たず、国が国際競争力を維持することも困難になるでしょう。
実際に、人手不足で倒産した企業は4年連続で増加しています [2]。
企業としても国家レベルの経済力という観点からも、外国人材の受入れは、現在、急務なのです。

こうした状況の中、2019年4月に新たな在留資格である「特定技能」が施行されました。
高度人材と位置づけられているこの「特定技能」には1号と2号があり、このうち2号は家族(配偶者と子ども)の帯同が許され、在留期間にも上限がありません [3]。
政府はこの「特定技能」を「移民政策とは異なるもの」[4] と位置づけていますが、就労可能な産業分野が14分野に限られてはいるものの、在留期間や家族の帯同という点では、定住者や永住者と同等の権利が認められています。

また、この在留資格の創設をふまえ、2018年12月に「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」(以下、「総合的対応策」)が決定し、翌2019年に改訂が行われました [5]。この政策の施策数は126、予算規模は211億円です [6]。

「総合的対応策」の全般的な運用はこれからですが、高度外国人材と企業とのマッチングを支援する施策も含まれていることから、マネジメントとしては今後の動向に注視する必要があります。

このように、国も既に本格的な外国人材獲得に舵をとっています。

次に、外国人材採用のメリットについて、労働力以外の側面もみてみましょう(以下の図2)

図2 外国人材を採用するメリット
出典:[7] 経済産業省(2018)貿易経済協力局「高度外国人材活躍企業50社」 p.2
https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180525002/20180525002-1.pdf

図2のように、外国人材を採用することにはさまざまなメリットがあると考えられていますが、このことについては、後ほど詳しくみていきたいと思います。

 

外国人材の雇用状況

 

では、外国人労働者はどの程度、増加しているのでしょうか。
以下の図3は在留資格別外国人労働者数の推移を表しています。

図3 在留資格別外国人労働者数の推移(2019年10月末時点)
出典(図3・図4):[8] 厚生労働省(2020)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和元年10月末現在) 図3: p.2、図4:p.4
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf

2019年10月末時点で外国人労働者数は 1,658,804人に達し、過去最高を記録しました [8]。
また、在留資格のすべてにおいて前年同月の人数を上回っていますが、在留資格については後ほどお話ししたいと思います。

外国人労働者を雇用している事業所数は242,608か所で、前年の2018年同月末に比べ26,260か所(12.1%)増加しています [8]。

 

 高度外国人材とは

 

外国人労働者と一口にいっても、在留資格によって在留期間や就労制限の有無、直接雇用や家族帯同の可否など、さまざまな点が異なります。
就労が認められている在留資格は、以下の5つのカテゴリーに大別されます(表1[9])。

表1 就労が可能な在留資格(人数の数値は2018年時点)
出典:[9] 厚生労働省(2019)職業安定局外国人雇用対策課 調査官 山本浩司「外国人労働者を巡る 最近の動向と施策について」(平成31年2月28日) p.4
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jetro/activities/support/ryugakusei/pdf/report_20190228/5.pdf

JETRO日本貿易振興機構の「高度外国人材活躍推進ポータル」サイトでは、以下の3点を同時に満たす人々を「高度外国人材」と定義していますが [10]、以下の条件のうち1のみをもって「高度外国人材」と呼ぶこともあります [11]。

筆者の知る限りでは、以下の2の要件は少しハードルが高すぎて門戸を狭めるため、実際には1のみ、あるいは1かつ3である人材を「高度人材」として受け入れている企業が多いようです。

「高度外国人材」の定義

  1. 在留資格がいわゆる「専門的・技術的分野」に該当するもの(表1-①)
  2. 採用された場合、企業において、研究者やエンジニア等の専門職、海外進出を担当

する営業職、法務・会計等の専門職、経営に関わる役員や管理職等に従事するもの

  1. 日本国内または海外の大学・大学院卒業同等程度の最終学歴を有している

では、現在、「専門的・技術的分野」に該当する外国人材は国内にどの程度いるのでしょうか(以下の図4)。

        

図4 在留資格別外国人労働者数と割合

この図からもわかるように、「専門的・技術的分野」の在留資格をもつ外国人材は 32,034人で全体の19.8%を占めています(2019年10月末時点)。
また、「資格外活動」のうち、「高度人材の卵」ともいえる留学生は318,278人で全体の19.2% [12]:「別表1」 であることにも注目すべきでしょう。

現在、コンビニや外食産業などで働く留学生を見かける機会が多くなっていますが、それも頷ける数値です。
アルバイトという形で就労した経験は、彼らのポテンシャルをさらに高めているということもおさえておきましょう。

次に、この在留資格に該当する外国人材の国籍をみてみましょう。
下の表2は、「専門的・技術分野」の外国人材を国籍別にまとめたものです。

表2 国籍別「専門的・技術分野」の外国人労働者数

 

*[ ]内は、外国人労働者数総数に対する当該国籍の者の比率。( )内は、国籍別の外国人労働者総数に対する当該在留資格の外国人労働者数の比率を示す。
出典:[12]厚生労働省(2020)「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧 (2019年10月末現在)」別表1(抜粋)
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590311.pdf

表2をみると、中国が圧倒的に多く、次いでベトナム、フィリピン、ブラジルと続きますが、全体的にみるとアジア諸国が多いことがわかります。このうち、ベトナムは最近、急増しています。

最後に、「専門的・技術的分野」に付与されている権利を簡単にみてみましょう。
この在留資格をもつ外国人材は家族(配偶者と子ども)の帯同が許され、在留期限も一定の要件を満たせば更新できます [13]。

さらに、「高度人材ポイント制」という制度があり、学歴・年齢・職歴・年収で決まる「基礎点」と特定の条件を満たすと得られる「特別加算」の合計が70ポイント以上になると、さらに優遇措置のある「高度専門職」という在留資格を申請することができます。

この「高度専門職」の優遇措置にはさまざまなものがあります [14]。
たとえば、最短1年で永住許可申請が可能になることもそのうちのひとつです。
在留資格「永住」が許可されれば、活動内容にも在留期限にも制限がなくなり、日本人材と同じような働き方ができるようになることから、日本での生活および就労を継続したいと考える外国人にとっては魅力的な特典だといえます。
また、「高度専門職」の優遇措置には入国・在留手続きの優先処理なども含まれるため、企業の負担軽減にもつながります。
以上のことは、高度外国人材のキャリア形成上も有益な情報となるでしょう。

 

 高度外国人材の国内採用と海外採用

 

ここでは、高度外国人材の採用について、国内と海外に分けて考えてみたいと思います。

国内で高度外国人材を獲得するとしたら、留学生を採用することになります。
まず、留学生の雇用状況をみていきましょう。
以下の図5は、「留学」などの在留資格をもつ外国人留学生が日本の企業などに就職するために行った在留資格変更申請数と許可数、不許可数の推移を表しています [15]。

図5 留学生が日本企業などへの就職のために行った在留資格変更申請の処分状況
出典(図5-図9):[15]法務省(2019)「平成30年における留学生の日本企業等への就 職状況について」
図5:p.5、図6:p.9、図7:p.12、図8:p.11、図9:p.16
http://www.moj.go.jp/content/001307810.pdf

この図をみると、申請数も許可数も次第に多くなっていることがわかります。

次に、変更した在留資格(図6)と就職後の職務内容(図7)をみたいと思います。

図6 在留資格別許可人数の割合 

図7 就職後の職務内容別許可人数の割合

在留資格はほとんどが表1でみた、いわゆる「専門的・技術分野の在留資格」で、さらにそのほとんどを「技術・人文知識・国際業務」が占めています。
換言すれば、留学生を雇用する場合、この在留資格が一番、取得しやすいということになります。

職務内容は、翻訳・通訳の割合が最も大きく、全体の23.6%を占めますが、職務の種類は多様です。

最後は業種(図8)と企業規模(図9)です。

図8  就職した企業などの業種別人数の推移

図9 就職した企業などの従業員数別割合  

2018年時点の業種をみると、非製造業が約81.6%、製造業が18.4%を占めます。
ちなみに、外国人労働者全体では製造業が29.1%なので [8]、それと比べると、非製造業の割合が高いことがわかります。

企業規模では、49人以下の割合が最も高く、それも含めた300人以下の企業が75.8%を占めることから、小・中規模の企業が多いことがわかります。

以上、外国人留学生の雇用状況をみてきましたが、彼らは高度人材として高いポテンシャルを秘めています。
外国人留学生は、そのほとんどが体系的な日本語教育を受け、留学期間中に専門分野の勉学に取り組み、その間に日本の文化や習慣、生活にも慣れていきます。
さらに、先ほどみたように、アルバイトなどで既に日本での就労経験をもつ留学生は、その経験から日本の企業風土やビジネスマナーの一端を理解しているとみていいでしょう。
このように、留学生は、即戦力となり、やがては企業の中核を担う人材ともなる得る、貴重な存在です。

「日本再興戦略 2016 ―第4次産業革命に向けて―」(2016年6月)にも、「外国人留学生の日本国内での就職率を現状の3割から5割に向上させること」を目指すと明記されています[16]。
一方、留学生側も日本での就職を希望する割合は高く、64%に上っています [17]。

筆者は大学で留学生を対象とした日本語教育を担当していますが、卒業後、日本企業への就職を希望する学生は多く、時折、彼らから就職に関する相談を受けます。
そのような時によく聞くのは、自分の母文化や母語、日本語力を生かして、母国と日本との架け橋になりたい―いわゆる「ブリッジ要員」として働きたいという希望です。
また、特に理系の留学生には、専門性を生かし、日本の先端産業で働きたいという希望を抱いている人が多いという傾向があります。
母国では若者の就職難が続いており、切実な状況を抱えた留学生も少なくありません。
日本での就職を希望する留学生が多い背景にはこうしたさまざまな要因が絡んでいます。

ところが、留学生の雇用率は実際には高くありません。

図5でみたとおり、外国人留学生の就職者数は増加傾向にはありますが、2016年度に大学や大学院を卒業・修了した留学生のうち、日本国内で就職した人は8,610人で、その割合は全体の36.0%にすぎませんでした [17]。
つまり、就職したいという希望をもっている留学生のうち、その希望がかなえられた人の割合は約56%のみだったのです。

優秀な外国人材の確保を必要とする企業側にとって、このような状況は大きな損失でしょう。
こうした現状を打開するためには、外国人留学生の採用方法を見直す必要がありますが、このことについては、後ほど詳しくみていくことにします。

次に、海外での採用についても概観しましょう。
日本国内で不足しているIT系を中心とした理系人材は、海外に在住している人を採用するケースが増えています。
その場合、海外の大学にアプローチしたり、「ジョブフェア」など海外で行われる外国人材とのマッチングイベントに参加するなどの方法が考えられます [14]。

こうして海外で獲得した人材が日本での生活に不慣れな場合には、生活支援を厚くする必要があります。
また、こうした人材は優れた専門性がターゲットであるため、日本語能力は不問で採用することが多く、英語だけで業務が遂行できるケースも珍しくありません。
でも、日本の職場において、すべてのコミュニケーションを英語に頼るのは現実的とはいえないでしょう。
日本で就労するのであれば、上司や職場で共に働く日本人社員とコミュニケーションを図る必要があります。そのため、入社してから日本語学習を始めなければならないケースも出てくるはずです。

2019年6月に「日本語教育の推進に関する法律」が施行され [18]、その第六条には、雇用する外国人やその家族の日本語学習に協力することが事業主の努力義務であると明記されています [19]。
この法律の条文に記されているのは基本理念だけですが、今後、施策段階に至った場合、日本語教育、日本語学習支援に関してどのような制度が整備されるか注視し、企業の責任として外国人材の日本語学習を支援する必要があります。

 

 高度外国人材の採用にあたってマネジメントが考えるべきこと

 

ここからは高度外国人材を迎え入れるにあたってマネジメントが考えるべき要点を、① 採用前、② 採用選考時から入社前まで、③ 採用後の3期に分けておさえていきたいと思います。

なお、以降は、各期とも、まず経済産業省「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック」のチェックリスト [20] でポイントを示した後、要点を絞って考えていきます。

~採用前~

表3 採用前のポイント

出典(表3-表5):[20]経済産業省(2020)「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック~実践企業に学ぶ12の秘訣~」 p.4
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/ryugakusei_katsuyaku_pt/pdf/20200228_01.pdf

ここでは、表3の1と2に絞って考えていきたいと思います。

まず、採用目的や役割の具体化について考えていきましょう。

ここで、もう一度、外国人材を採用するメリットを図2で確認したいと思います。

図2 外国人材を採用するメリット

まず、採用する外国人材に期待するのは上のようなメリットのうちどれなのかを明確にし、そうした役割を担う人材をできるだけ具体的にイメージしましょう。

適切な外国人材を獲得するためのプロセスは、期待する役割を明確化したうえで、業務上必要な技術力や日本語能力などを的確に想定することから始まります。

 

日本人材を新卒採用する場合、採用時点では職種を限定せず、新入社員研修を経て配属を決定、あるいは発表するというのは珍しいことではありません。

でも、外国人材の場合、日本人材とは事情が異なります。

業務内容と在留資格が適合していないと、在留資格が取得できないおそれもありますし、業務内容によって必要な日本語能力も異なるからです。

そのため、業務内容を採用前から明確にしておくことが、ミスマッチを防ぎ、就労定着にもつながるります。

 

次に、外国人材採用に関するコンセンサスを形成することについてみていきましょう。

このとき、経営者や人事担当者だけでなく、現場の社員とも採用方針を共有することが大切です。

外国人材を採用することの意義や目的を社内全体で理解し、共有しなければ、現場の受入れ体制を整えることはできません。

外国人社員と日本人社員が友好的に協働し、外国人社員がその能力を十分に発揮するために、また、適切な人材育成をするためにも、全社的なコンセンサスが得られるよう調整しましょう。

~採用選考時から入社前まで~

表4 採用選考時から入社前までのポイント

ここでは表4の5と7にフォーカスしましょう。

まず、柔軟な選考方法の必要性について考えてみたいと思います。

大学で「ビジネスジャパニーズ」のクラスを担当していると、さまざまなことに気づかされます。
たとえば、外国人留学生にとって、日本特有の就職活動のあり方やスケジュール、履歴書などの書類の書き方、日本の企業風土、日本式のビジネスマナーなどはすべて未知の世界であるということも、そのうちのひとつです。

また、日本語能力が高く、大学生活においては日本語に不自由しない留学生にとっても、敬語を基本とし、独特の表現が多いビジネスジャパニーズはかなりハードルが高いものだということも実感します。
あまり知られていないことかもしれませんが、同じ日本語ではあっても、高等教育に必要なアカデミックジャパニーズとビジネスジャパニーズとでは別個の知識と能力を必要とするものです。

たとえば、ビジネスジャパニーズでは敬語使用が基本ですが、日本語の敬語システムを理解し、運用するのは、実に難しいことです。
広い意味で敬語や待遇表現のある言語は多数ありますが、日本語の敬語はその中でも際立って複雑で、特殊です。日本語ネイティブであっても完璧に使いこなせる人は稀でしょう。

また、職場でコミュニケーションを図る際、相手の職位や年齢、性別、勤続年数、相手と自分との関係性などによって、話し手は言葉の表現も態度も変えなければなりませんが、その使い分けは日本語ノンネイティブにとっては非常に難しいものです。

さらに、ビジネス文書とビジネスメールの形式や表現の違い、電話での一連のやりとりにおける談話構造、ひいては上座・下座の区別や「貴社/御社」、「〇〇部長/部長の○〇」の使い分け等々、学ばなければならないことは山ほどあります。

以上のように、ビジネスジャパニーズは、そう簡単に習得できるものではないのです。
外国人留学生もそれを認識し、そのことに対して強い危機感と不安感を抱いています。

経済産業省が委託したアンケート調査の結果にも、こうした事情があらわれています。
留学生が就職活動中に困ったことのうち、採用に関わることとして挙げたのは、以下のようなことでした [21]。

  • 日本語による適性試験や能力試験が難しい(32.2%)
  • 日本語での面接への対応が難しい(25.5%)
  • 日本語による書類の書き方がわからない(19.8%)
  • 企業が求める日本語レベルが高すぎる(12.2%)

一方、企業側が留学生の就職活動について改善すべきだと考えていることで最も割合が高いのは、「日本語能力が不十分である」で、38.9%を占めます [21]

これらのことから、企業が高い日本語能力を求めているのに対し、留学生はそれに応えるのに困難を感じているという状況が見えてきます。

しかし、繰り返しになりますが、ビジネスジャパニーズは大変難しいものです。
外国人材に一方的に高い日本語能力を要求するという方向性を見直し、彼らの日本語が幾分、不十分ではあっても、ある程度はそれを許容し、彼らの日本語学習をサポートするという姿勢が、企業側にも必要ではないでしょうか。

また、外国人材候補者に対して高い日本語能力を一律に採用要件にすると、業務に必要な専門性やスキルをもつ人材を見逃すおそれがあります。
選考方法を見直し、採用時の日本語能力にあまりとらわれすぎずに、期待する役割・業務に必要な日本語レベルや専門性を的確に判断できるような選考方法に変更すべきでしょう [20]。

ここで、日本語能力を的確に判断するために有益な最新情報を提供したいと思います。
これまで外国人を雇用する際に、その職務内容に応じた日本語能力を採用条件にしたくても、その参考となるような総合的な指標がありませんでした。

そこで、はじめの方でお話しした、外国人受け入れ政策の「総合的対応策」では、外国人の日本語能力を評価するために「日本語教育の参照枠」(共通指標)について検討・作成することが定められ [5]、現在、文化庁のワーキンググループが検討を重ねています [22]。

この参照枠案では、世界中で広く用いられている「ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR )」を参考にして、「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の5つの言語活動別に、基礎段階であるA1から熟達段階であるC2までの6レベルが設定され、それらのレベル別に、「何ができるのか」が明記されています [22]。

以下のサイトにアクセスし、次の手順で活用することが可能です。

          文化庁「日本語教育の参照枠」(案)   [22]

 

① 全体的なレベル把握:pp.16~18 ⇒ ② 該当するスキル・必要な日本語レベルの確認:p.19~

ただし、ここで注意しなければならないのは、上に挙げた5つの言語活動に関する日本語能力を、すべてバランスよく習得できる人は多くないということです。

下の図10は、口頭表現能力が高い人、図11は読み書き能力が高い人の日本語熟達度を表しています。

   図10 口頭表現能力が高い人の熟達度     図11  読み書きの能力が高い人の熟達度
出典(図12・図13):[22]文化庁(2020)「日本語教育の参照枠」に関するワーキンググループ一次報告(案)」(2020年1月24日)p.14
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongokyoiku_hyojun_wg/05/pdf/92026701_03.pdf

例えば、職務内容が対人サービスに関わるものであれば、図10のように口頭表現能力が優位な人が適しているでしょう。
一方、翻訳や事務関係などのように読み書きの能力が必要な職種なら、図11のような人が適任です。

もうひとつの留意点は、日本語による面接では、図10のような人が圧倒的に有利であるということです。
しかし、面接でのやりとりがスムーズだったからといって、読み書きができるとは限りません。
また、先ほどもお話ししたように、日本語能力ばかりに注目すると、職務に必要な他の能力やスキルを的確に判断できないおそれがあるという点も要注意です。

望むとおりの人材を確保するためには、以上のようなことを参考にして、より適切な選考方法を検討することが必要です。

次に、採用選考時から入社前までに考えておくべきことの2つ目は、日本人社員への教育です。

外国人社員のさまざまなバックグラウンドに対して、日本人社員が理解することがまず大切です。
日本人社員にとっては当たり前のことが、外国人社員にとっては当たり前ではない場合もあるという認識を、社内で共有しましょう。

コミュニケーションに関しては、外国人にとってわかりやすい日本語を使うことが大切です。
たとえば、文を短くする、はっきりゆっくり話す、というだけでも、大分わかりやすくなります。
外国人にとって難しいのは、先ほどお話しした敬語の他に漢語や外来語などがあります。意外かもしれませんが、英語由来の外来語は英語のネイティブにとっても、非常に難しいものです。

できるだけ明示的な表現を心がけることも大切です。
日本文化は、言語での表現を抑え、文脈に意味を依存させる傾向が強い、高コンテクスト文化だといわれています。
たとえば、相手の意見に同意できない場合、そのことをはっきり伝えるのには抵抗を覚える人も多いのではないでしょうか。
そこで、「うーん、どうかな」とか、「それは、ちょっと・・・」などと言う人もいるでしょう。
相手の申し出を断る場合にもはっきりノーと言わずに、「今回は見送ろうかな」とか「ちょっと無理かも」などと言うことも珍しくありません。
日本人にとってこれらの表現は相手への配慮であり、曖昧さが丁寧さにも通じるのですが、日本人同士ならすぐに意図がわかるこのような表現が、外国人にとっては非常に理解が難しいのです。
このような曖昧な表現は避け、言葉で明示的に表現するという姿勢が必要です。

日本人社員が、どのような日本語なら外国人社員に理解してもらえるのかという視点をもち、外国人社員の反応をよく観察し、相手に合わせた日本語を使うことによって、職場でのミスコミュニケーションを減らすことができます。
また、そうした経験を積み重ねることで、日本人社員のコミュニケーション能力が高まるという副次効果も見込めます。

以上のようなことを日本人社員に周知し、できれば研修などの機会を設け、外国人材の入社後もそうした取り組みを継続することが有益です。
そうすることによって、日本人社員と外国人社員の良好な人間関係が構築され、優秀な外国人社員の定着につながります。

~入社後~

表5 入社後のポイント

ここでは、上記8と10をまとめてキャリア展望についてみていき、9と12を合わせて異文化マネジメントについて考えてみたいと思います。

まず、キャリア展望についてみていきましょう。
外国人社員はキャリアに対する明確な計画を持っていることが多いといわれています。
そのため、本人のキャリア展望を把握した上で、配属の意図や意義について丁寧に説明することが大切です。
先ほどもお話ししたように、外国人材の場合は、採用前に業務内容を明確にし、配属についてもできるだけ早く伝えておくことが原則です。
その上で、入社後も引き続き彼らのキャリア形成を尊重し、彼らが望むキャリア展開が長期的に実現するためのサポート体制を整える必要があるでしょう。
こうした体制整備は、日本人社員のキャリア形成にも役立つはずです。

次に、異文化マネジメントについて考えてみましょう。
文化の違いを理解するためには、日本人社員と外国人社員の接触場面を多く設けることが大切です。それは、双方の異文化理解を促すと同時に、日本人社員にも多くの気づきをもたらすでしょう。
その際に、先ほど日本人教育のところでお話ししたような方向性でコミュニケーションを図れば、より理解が進むはずです。
良好なコミュニケーションは良好な人間関係の基盤となります。
それが、外国人社員の疎外感や不安を軽減し、孤立を防ぐのにも役立つでしょう。

大学では1・2年生の留学生に日本人のチューターがついて、生活面、学習面、日本語などのサポートをするシステムがあります。
最近はこのようなチューター制度を取り入れている企業もあるようです。
新入外国人社員に日本人の先輩社員がついて、さまざまなサポートをするシステムです。
そうすれば、外国人材の問題にもすぐに気づくことができ、問題があった場合でも、早めの対応が可能になります。
どのような体制を整えれば、社内の異文化理解が進み、外国人材が安心して働ける職場が実現できるのか―それは、マネジメントが考えるべきことのひとつです。

また、外国人材は、帰国などのために長期休暇を希望する場合が多いため、現行の制度では対応が難しい場合、 運用の見直しや、周囲の理解が得られるような仕組みを作ることも重要です [20]。

最後に、表5のポイントにはありませんが、多様な働き方の推進も有益です。
海外採用で獲得した外国人材はテレワークやサテライトオフィスでの業務など、多様な働き方を経験している場合が多いので、そうした働き方を導入するのも彼らの活躍や定着に役立ちます。
また、ワークライフバランスに配慮し、ライフステージに合わせた働き方ができるようなシステムを構築することも、彼らのモティベーションの向上につながるでしょう。
働き方改革が叫ばれる現在、こうした多様な働き方の推進は、日本人社員を含む企業全体にとって有益な取り組みになるはずです。

 

 おわりに

 

以上、高度外国人材の採用にあたってマネジメントが考えるべきことについてみてきました。

マネジメントがおさえなければならないポイントは、大まかにいえば、適切な採用選考の検討、キャリア形成に対するサポート、全社的な受入れ体制の整備に集約されます。

以上のようなポイントを生かすことができれば、それは高度外国人材の獲得や活躍、定着に有益なばかりでなく、日本人社員の成長や働きやすさにもつながり、企業に大きな利益をもたらすはずです。

そうしたマネジメントの取り組みは、ある種の機構改革の推進といってもいいかもしれません。
高度外国人材の採用は、まさにマネジメントの腕の見せ所といっていいでしょう。

<<あわせて読みたい>>

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参照 

[1]引用・参考)厚生労働省(2017)「日本の将来推計人口(平成29年推計)の概要」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000173087.pdf

[2]参考)株式会社帝国データバンク(2020)「特別企画:「人手不足倒産」の動向調査(2019年1~12月):2019年の人手不足倒産、 4 年連続で最多を更新 ~建設業や道路貨物運送業で小規模企業の倒産相次ぐ~」
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p200104.pdf

[3]参考)出入国在留管理庁(2019)「在留資格『特定技能』について」
https://www.meti.go.jp/press/2019/08/20190809002/20190809002-1.pdf

[4]引用)内閣府(2018)「経済財政運営と改革の基本方針 2018~少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現~」(平成30年6月15日)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/2018_basicpolicies_ja.pdf

[5]引用・参考)法務省(外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議)(2019)「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)」 (令和元年12月20日)
http://www.moj.go.jp/content/001311603.pdf

[6]引用・参考)総務省(2019)自治行政局国際室「外国人材の受入れと地域における多文化共生施策の現状等 資料 6 (令和元年11月1日)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000656694.pdf

[7]引用・参考)経済産業省(2018)貿易経済協力局「高度外国人材活躍企業50社」
https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180525002/20180525002-1.pdf

[8]引用・参考)厚生労働省(2020)「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】 (令和元年10月末現在)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590310.pdf

[9]引用・参考)厚生労働省(2019)職業安定局外国人雇用対策課 調査官 山本浩司「外国人労働者を巡る 最近の動向と施策について」(平成31年2月28日)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/jetro/activities/support/ryugakusei/pdf/report_20190228/5.pdf

[10]引用・参考)JETRO日本貿易振興機構(2020)「高度外国人材活躍推進ポータル:高度外国人材とは」
https://www.jetro.go.jp/hrportal/forcompanies/about.html

[11]引用)JETRO日本貿易振興機構(2019)ビジネス展開・人材支援部 国際ビジネス人材課 河野敬「高度外国人材活躍推進プラットフォーム について」https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/hr/ryugakusei/report_20190822/1.pd

[12]引用・参考)厚生労働省(2020)「外国人雇用状況」の届出状況表一覧 (令和元年10月末現在)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000590311.pdf

[13]参考)出入国在留管理庁(2020)「在留資格の変更,在留期間の更新許可のガイドライン(令和2年2月改正)
http://www.moj.go.jp/content/001313775.pdf

[14]参考)JETRO日本貿易振興機構(2018)「新輸出大国コンソーシアム事業 高度外国人材活用資料集」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/theme/hr/data/data.pdf

[15]引用)法務省(2019)「平成30年における留学生の日本企業等への就職状況について」
http://www.moj.go.jp/content/001307810.pdf

[16]参考)総理官邸(2016)「日本再興戦略 2016 ―第4次産業革命に向けて―」(平成28年6月2日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_zentaihombun.pdf

[17]参考)JASSO独立行政法人 日本学生支援機構(2018)「文部科学省 平成30年度『全国キャリア・就職ガイダンス』留学生セッション:外国人留学生の就職促進について(留学生の採用・定着における現状・課題)」
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/job/__icsFiles/afieldfile/2018/12/05/01_ryuugakusei_monkasyou.pdf

[18]参考)文化庁HP(2019)「日本語教育の推進に関する法律の施行について(通知)」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/other/suishin_houritsu/1418260.html

[19]参考)文化庁HP(2019)「日本語教育の推進に関する法律 条文」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/other/suishin_houritsu/pdf/r1418257_02.pdf

[20]引用・参考)経済産業省(2020)「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック~実践企業に学ぶ12の秘訣~
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/ryugakusei_katsuyaku_pt/pdf/20200228_01.pdf

[21]引用)経済産業省(2015)「平成26年度産業経済研究委託事業  外国人留学生の就職及び定着状況に関する調査」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/global/pdf/H26_ryugakusei_report.pdf

[22]引用・参考)文化庁(2020)「日本語教育の参照枠」に関するワーキンググループ一次報告(案)」(2020年1月24日)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/nihongokyoiku_hyojun_wg/05/pdf/92026701_03.pdf

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