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会社経営にとってコストなど、大した話ではないという事実について

岐阜県に所在する未来工業と言えば、「日本一のホワイト企業」として有名だ。

年間休日140日、年末年始は20日間の休み、定年は70歳、副業もOK、社員の平均年収は600万円超。
それでいて東証一部上場企業であり、経常利益率はコンスタントに10%を超えているのだから、社員だけでなく経営者にとってもまさに憧れの会社ではないだろうか。

いったいどんな商売をすればそんな利益体質を維持できるのか不思議な気もするが、元代表取締役で取締役相談役の山田昭男氏は、シンプルにこう語る。
「お客さんに喜んでもらえるもの作っておけばよそより高くても買ってもらえるんです。」と。[1]

少し読書好きな人であれば、似たような言葉はもはや聞き飽きているだろう。
マーケットで絶対的なポジションを確保し、価格競争に巻き込まれないようにしよう。顧客のニーズの在り処を見抜き、最適なプランを提案すべきだ・・・。

誰でも知っているし、そう在りたいと願っている。しかし具体的にはノーアイデアで、結局いつもと同じ工夫のない毎日を過ごしている。
ではなぜビジネスパーソンは、こんな基本的なところから躓き「在るべき姿」を追求できないのだろうか。

 

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不要なものは安くても要らない

 

もう随分以前の話だが、筆者はかつて経営破綻寸前の会社で、M&Aに取り組んだことがある。
メインバンクからの融資はとっくに止まり、損益分岐点を超える売上は遥か遠く、営業キャッシュフローの黒字転換は全く見通せない。
このままでは法的整理か身売りしか選択肢がない状況だったが、経営トップは身売りだけは受け入れられないと強く拒んだ。
その際、窮余の策で思いついた方策が会社の分割と、分割した事業部門の売却による資金の調達だった。

当時の状況は、創業以来続く薄利多売だが優良な事業部門から上がる利益を、新たに始めたメーカー事業が全て食いつぶし、さらに積み上げた資産も溶かし続けている状況だった。
新たに始めたメーカー事業は全国初のベンチャー事業であったこともあり注目を集め、VCなどから数億円を超える投資を受けている。

そのためベンチャー事業を売ることは困難であり、売却の対象に選んだのは優良事業であった。
事業再生のセオリーでは、「グッドカンパニー(健全な事業部門)」を残し「バッドカンパニー(不健全な事業部門)」を整理するのが常道だが、完全に逆だ。
言わば確実にお金になる優良事業を売却した資金で、ベンチャー事業でさらに悪あがきをしようという構図だった。
経営トップの同意を得ると早速、メインバンクから紹介されたM&A仲介会社と契約を結ぶ。
そしてDD(デューデリジェンス:事業の精査)や売却候補先企業の担当者との交渉などが進むが、その間、私は完全に「まな板の上の鯉」だった。
言われた通りに資料を出し、聞かれたことだけに答え、ただただ

「少しでも高い買収金額が提示されますように」

と祈るだけの、無力な存在だった。

そして最終的に、売却候補先企業から提示された金額は、純利益のわずか2.5年分。
3億円程度の提示であり、事業の安定性を考えると到底納得がいかない金額であった。
そのため、すぐに価格交渉を申し入れたが、

「このままでは、御社はあと半年程度しかキャッシュがもたないんですよね?」
「ウチはこれでも、敬意を込めて相場より高く提示しているつもりです。」
と、全く取り付く島がない。

完全に足元を見られているが、不本意な提示では引くわけにも行かない。そしてさらに交渉をしようとした段階で先方から
「これ以上の提示はできないので、結構です」
と、話は破談になった。

そして、キャッシュが枯渇するタイムリミットまで僅かしか無い状況の中で、無駄な時間と経費を使っただけで、話は振り出しに戻ってしまった。

 

本当に欲しい相手は誰なのか

 

「残念でしたね。直ちに次の候補先と交渉に入りましょう。」
仲介会社の担当者は話を進めようとするが、納得がいかない私は仲介会社に問いただした。
「次も専任仲介なのですか?可能であれば、ビット(入札)で進めたいのですが。」

少し背景をお話すると、一般に大企業同士のM&Aでない限り、仲介は専任仲介、すなわち仲介会社1社だけが連れてきた売却候補先1社を相手にして、交渉が行われる。

仲介会社の視点で言えば、他の仲介会社と競合すると手間暇を掛けただけで、徒労に終わる可能性があるからだ。
売却候補先も、お金と時間を掛けて事業を精査したのに最終的に買えないとなると、やはり面白くない。
この仕組みでは売却側にもメリットがないわけではないのだが、少なくとも当時の状況では、専任仲介でもう一度の失敗が許される時間的余裕はない。
次の話が破談になれば、もう3回めの交渉を行う前に、法的整理を選ばざるを得なくなるだろう。

言い換えれば、買い手側の企業から見ればそれも含めて交渉材料になるということだ。
つまり最初から、売り手側と買い手側の力関係が一方的すぎて、こんな条件では交渉が成立せず戦えないという申し入れだった。
この申し入れに対し当初、仲介会社の担当者は

「M&Aでは、専任仲介が常識です」
「ビットにするというのであれば、当社はこれ以上お付き合いができません」

と強気に拒否をする姿勢を見せた。
しかし、

「やむを得ません。それでは株主系の別の仲介会社から紹介を受けている会社と、今後は交渉を進めます。」

と伝えたところで折れ、

「そういうことであれば、当社もビットに参加します。」

と、あっけないほどに簡単に折れた。
いったい何がM&Aの常識なのかと思わなくもなかったが、ビットで進める以上、交渉相手は多いほうが有利になる。
当社の事業をどうしても欲しいという買い手同士が競ってくれて初めて、「どうしても今、売りたい」立場と、「どうしても欲しい」という立場が対等になって、交渉が成立する。
これでやっと、本当の意味でスタートラインに立つことができた。

 

価額など目安に過ぎない

 

結局ビットは最終的に、仲介会社2社が斡旋してきた3社が参加し、そのうち1社は早々に撤退したので2社による入札になった。
入札と言っても、何かのマンガやドラマのように入札額を箱に入れ、それを読み上げるというような方法で進むわけではない。
事業の精査を進め、その過程で数字では表せない定性的な条件なども水面下でオファーし、トータルで最終的な売却先が決まる。

そしてこの時に私が本命視していたのは、同業他社である大手A社だった。
A社は実は、当社が立ち上げたベンチャー事業を後追いで始め、そのノウハウの確立に苦労し、いくら稼働率を上げても黒字を出せない工場運営に苦しんでいることが盛んに報じられていた。
一方で当社は、早々に工場の運営ノウハウを確立し、損益分岐点は稼働率30%程度で黒字化できるノウハウを既に得ていた。ただし、営業力と与信が不足していたために、新たに立ち上げた工場の売上が上がらずに苦しんでいる状況である。

であればA社の本音は恐らく、優良事業の買収が最終目標ではなく、ベンチャー事業を併せた買収か、もしくは業務提携に在るはずだ。
少なくとも、当社との関係を深めるために、対象事業の売却には本気で臨んできてくれるだろう。

そのように考え、交渉途中では対象事業の査定だけでなく、M&Aが終了した後の業務提携までを視野に入れた交渉を進めた。
そして「手元資金として、率直に言って9億円は必要です」と、対象事業の売却で得たい金額を強気でオファーした。
3億円ですら降りた会社がいた中での、3倍となる常識はずれの交渉だ。
もちろんここからディスカウントされることを織り込んだ上での交渉だったが、最終的に意外な結果が待っていた。

全ての事業の精査を終えて、一方の交渉相手が出してきた最終提示額は4億円。
3億円でも降りた会社がいた中では、上々の数字と言える金額だ。
それに対して、A社が提示してきた金額は、なんと10億円だった。
「どうしても欲しい」という思いが最後の最後でなお、私の想像を遥かに超えていた。
この結果に心から満足し、私はA社と最終的な契約交渉を始めることにして、もう一方の会社にはお断りの連絡を入れた。

 

売値とコストなど何の関係もない

 

この経験から得たことは余りにも多いが、一番の教訓は、

「この商品は、顧客にとってどれだけの価値があるのか」

という視点から、自分が売ろうとしている商品やサービスの価値を決めるべきだ、という考え方の再確認だろうか。

もちろん、そんな事は経営の基本であり、今さら感があるかもしれない。
冒頭に紹介した未来工業の山田相談役の言葉、

「お客さんに喜んでもらえるもの作っておけばよそより高くても買ってもらえるんです。」

という教訓のように、言葉そのものにはなんら新鮮味はない。

しかし、本当にこの考え方を世の経営者は、徹底できているだろうか。
例えばM&Aで事業を売却する時に、

「ウチの会社、相場ではどれくらいですか?」

と、公認会計士に質問しないと言い切れるだろうか。

誤解を恐れずに言えば、相場など少し調べれば誰でも簡単に計算できる。
しかし、その相場の情報を得て、「それよりは高く売りたい」などと考えて会社や事業の売却を考えているうちは、決して満足のいく結果は得られないだろう。
自社の事業は、相手にとってどれだけの価値があるのか?という視点に全く立てていないからだ。

これは何も、M&Aという大きな話だけでなく、日常の営業の話でも同じだ。
コストを積み上げた売値で出した、「これは○○円です」というオファーは、比較的単価の低い消耗品の世界では確かに通用するかも知れない。
しかしこれが数百万円単位の商談であれば、その商品やサービスが顧客にとってどのような役に立ち、その結果どれほどの定量的・定性的な効果が得られるのか。
提供側の都合であるコストなど関係無しに、必ず顧客目線でのメリットが語られなければならないのではないだろうか。

裏を返せばそれは「定量的・定性的メリットが有る」範囲であれば、売値はコストなど関係なしに、いくらでも良いということだ。
それが、

「お客さんに喜んでもらえるもの作っておけばよそより高くても買ってもらえるんです。」

という言葉の、本当の意味ではないだろうか。

頭でわかっているだけで実践しないのは、やはりもったいない。
ぜひ少しでも、この価値観を常に思い出し、経営判断を下す時の参考にしてみてはどうだろうか。

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[1]大阪市産総館「日本一幸せな会社のつくり方 ~未来工業の非常識?経営~」

https://bplatz.sansokan.jp/archives/13

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